恐妻家やフェミニストなのに家庭ではモラ夫……が、専門家にすれば珍しくない理由<モラ夫バスターな日々41>

弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々<41>

 「妻と子が私の人生の全てです……」  40代後半の男性は、私の事務所で大粒の涙を流して泣いた。依頼者(妻)の話では、夫はいつも威張り散らし、突然切れて怒鳴る、典型的なハード・モラ夫だが、私の目の前の男性は、小さく縮こまり目を真っ赤にして泣いていた。  「『離婚する!出てけ!』と怒鳴りませんでしたか」と訊くと、「本気じゃなかった……」「そんなにズボラだと、本当に『離婚』になるよ、という戒めで言ったんです」  と男性は述懐した。打ちひしがれた男性は、怒り狂うモラ夫とは、全く別の人物に見えた。  モラ夫の中には、オシドリ夫婦を演じる者(19回25回参照)や恐妻家を演じる者がいる。今、話題になっているジャガー横田さんの夫・木下博勝医師は、メディアでは恐妻家を演じてきたと報じられている(“パワハラ医師”木下博勝&ジャガー横田「お車代出せ!」夫婦そろってタカリ三昧、ジャガーは病院上層部をビンタ”|文春オンライン)。  モラ離婚(モラ夫との離婚)を扱っていると日々、偽装オシドリ夫婦や偽装恐妻家に出会う。木下医師のような偽装恐妻家は、モラ離婚の現場では、特に珍しい存在ではない(25回参照)。

リベラリストが実はモラ夫であることは全く珍しくない

 そもそも成功し、ある程度の社会的地位に就いている男性にはモラ男が多い。モラ男になる原因は、幼児期に社会化する過程で男尊女卑、男女役割分担などのモラ文化が、基本的価値観、規範として、人格の基礎部分に組み込まれることにある28回参照)。  その後、学校教育で「男女平等」を学び、理性などの表層意識がリベラルまたはフェミニストになっても、基本的価値観が変わっていなければ、その本質はモラ男のままで、結婚して何らかのきっかけでモラスイッチが入りモラ夫になる(11回参照)。  殊に、学業、試験に強く、社会的地位も得た「勝者」は、挫折など、自らの基本的価値観を見直すきっかけに出会わない。男女平等を信奉するリベラル・フェミニスト男性が、実はモラ男であったということは全く珍しくない。  誤解を恐れずに言えば、「先生」と呼ばれる職業、すなわち、政治家、医師、弁護士、教師などには、モラ男が比較的多い印象が強い。文春の記事によれば、木下医師は、モラ男相手の感情労働に従事するキャバ嬢からも呆れられる程のモラ男だったようだ。  しかし、文春の報道が真実で、木下医師がモラ男だとしても、その経歴をみるとごく自然ななりゆきだと思う。ついでに述べると、モラ男の標的にされやすい職業もあるように思う。看護師、保育士、秘書など良妻賢母や女性の優しさを連想させる職業は狙われやすい。
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自身を恐妻家のように偽装するモラ夫もいる
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