最先端[がん治療]、エビデンスがない「新しい治療法」には要注意
「不治の病」から「治る病気」へと印象が変わりつつある、がん。そこにつけこんで「治せる治療法」が続々と登場している。本当に治せるものはどれなのか? 真贋の見分け方を医学の専門家に聞いた。
去る11月12日付朝日新聞朝刊にて『イタリア人医師が発見した ガンの新しい治療法』という題名の書籍広告が掲載された。その中には「重曹殺菌と真・抗酸化食事療法で多くのガンは自分で治せる」などの表現があったのだが、「エビデンス(科学的根拠)はない」などと指摘する専門家らの意見が、SNS上で拡散された。
事態を重く見たのか、朝日新聞社広報部は同月14日に声明を発表。同社が調べたところ、その医師は独自の抗がん処置をした患者に多額の代金を支払わせたことでイタリア医学界を追放。さらには国外でがん患者を死なせて逮捕・服役していた人物だったとして、過失を認めたのである。
今の日本では同様に「最先端のがん治療法」を謳った書籍や広告をよく見かける。その真贋を見分けるにはどうしたらいいのか。前述したエビデンスのありなしというのは、どういうことなのだろうか。厚生労働省の「『統合医療』に係る情報発信等推進事業」に携わっている島根大学医学部教授の大野智氏に聞いた。
「ここでいうエビデンス、科学的根拠とは、人に対して効果があるかどうか、つまり『効く』かどうかという裏付けのことを意味しています。具体的には人を対象とした臨床試験で有効性が証明され、その結果が第三者による査読審査を受けて学術雑誌に掲載されているのであればエビデンスとして十分というのが一般的な考えです」
つまり学術書をどこで読んだらいいのかすらままならない、我々一般人には判断しかねるところ。そこで詳しい医師に聞こうにも、前述したとおり、曲がりなりにも医師の肩書を持っている人物がエビデンスのないものを出してくるので困ったものである。
そもそも怪しげながん治療法が蔓延しているのはなぜなのか。それは日本に“がん難民”があふれているからなのかもしれない。その“がん難民”とは何なのかを、愛知医科大学病院の先制・総合医療包括センター教授・部長であり、一般社団法人「日本先制臨床医学会」理事長である福沢嘉孝氏に聞いた。
「がん難民とはがんが進行しているのに治療を行っていない人です。日本におけるがんの3大療法である『手術』『抗がん剤治療』『放射線治療』で治らないことから医師や病院に不信感を持ってしまったり、緩和医療を勧められてどうしていいかわからなくなったりして、余計にがんが進行してしまうケースが多いのです。日本のがん死亡者数は年間130万人ほど。その2人に1人が治療をせずに亡くなっていることから、広義では65万人ほど。患者の実数予測から狭義では40万人程度いるといわれています」
日本では3大療法で治しようがなくなると心と体を和らげる緩和ケアへ移行するしかなかった時代が長く、その中間に位置する医療がなかったから、これほど多くなってしまっているという。
「ドイツでは医師がハーブを処方できるし、オーストリアではラドン温泉を勧められる。米国では’77年に国民の食事目標としてまとめられた『マクガバンレポート』が発表されたことで、がんに食事療法が用いられている。日本にも鑑真が中国から持ち帰った後、研究を重ねられた伝統医療として漢方があったが、西洋医療一色になったため、弾圧されてしまったのです。しかしそれも近年は変わって、’01年から医学部でも講義に漢方が取り入れられるようになりました。日本でも効果のあるものは積極的に使っていこうという流れになっているのです」(福沢氏)
そういった流れの中で真に効くものに交じり、偽物や詐欺まがいのものが散見されるようになったということだ。では、その中から正しいものだけを見分けるにはどうしたらいいのだろうか。
手術、放射線、抗がん剤以外にも湧いてくる治療法
“がん難民”救うため? それとも騙すため?
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