今月から連載「
映画を通して『社会』を切り取る~日本映画の現在」がスタートします。昨年、日本の貧困家庭を描いた是枝裕和監督の「万引き家族」がカンヌ国際映画祭で最高賞のパルムドールを受賞しました。続いて今年は、食を司る役職に就く曹洞宗の僧侶を描いた映像制作集団・空族の『典座~TENZO』が同祭で上映されるなど、テーマ性のある秀作が多いと世界でも評判の日本映画。この連載では、映画を通して「社会」を切り取ろうとする日本映画の作り手を紹介します。
第1回は
「種をまく人」が池袋シネマ・ロサで公開中の映画監督・竹内洋介さん。同作はギリシャの第57回テッサロニキ国際映画祭で最優秀監督賞、最優秀主演女優賞(竹中涼乃)を受賞した他、第33回LAアジア太平洋映画祭ではグランプリ、最優秀脚本賞、最優秀主演男優賞(岸建太朗)、ベストヤングタレント賞(竹中涼乃)の4冠を達成し話題に。
精神病院を退院した中年男性と、ダウン症の妹を持つ姪の少女、そしてその家族を描いた同作品は重たいテーマを扱いながらも希望があり、俳優たちの演技が素晴らしいと多くの映画ファンに支持されています。
※映画の“ネタバレ”になるような内容を含みます。
ダウン症の姪が「誕生したことをどうしても祝福してあげたい」
――タイトルはゴッホが模写していたというミレーの「種をまく人」から取っているということでしたね。制作の経緯とタイトルに込めた思いについてお聞かせください。
竹内:幼少期から絵を描くことが好きで、24歳の時にフランスに行きました。1年半ほどパリの小さなアトリエで絵を描いていたのですが、オルセー美術館で初めてフィンセント・ファン・ゴッホの絵画に出会い言葉にならないほどの衝撃を受けました。それまで映画を撮ることは全く考えていなかったのですが、初めての長編映画を撮る時は、絶対にゴッホに関連した映画を撮ろうと思っていました。
同時に『ゴッホの手紙』やゴッホの人生を描いた本を読み漁り、ゴッホに深くのめりこみました。
脚本は「死と愛」という長編シナリオを書いた後の2012年から書き始めたのですが、当初は滅びゆく世界の中で植物が貴重なものとなり、3人の主人公が探し出した種を守りながら育てていくという近未来的な話でした。
ところが、「ゴッホの手紙」や引用されている聖書などを読み漁っているうちに、ゴッホの人生そのものに興味を持ち、様々なモチーフが湧いてきました。『ゴッホの手紙』には彼の哲学や宗教観、絵画に対する思考などが描かれているのですが、現代の日本でそれを描く時、どのような表現がふさわしいのかを考え続けました。
――10歳の主人公知恵がダウン症の妹一希を落として死なせてしまったところから物語が動き始めますね。竹内さんご自身の姪っ子さんの誕生も作品に大きな影響を与えたと聞きました。
竹内:ダウン症の姪が生まれたのが東日本大震災の翌年ですが、その時、姪の母親(義姉)が僕の両親に謝ったそうです。それを聞いて彼女が誕生したことをどうしても祝福してあげたいと感じました。きっと彼女の存在は天使のようなものでギフトに違いないと。
それは彼女が大きくなるにつれ強くなり、確信に変わっていきました。姪の存在は僕にとって大きな位置を占めていき、どうしても彼女の姿を映画に刻んでおきたいと思いました。ダウン症の子は周りを自然と幸せな気持ちにさせてくれると言いますが、それは本当なんですね。