問題はそれだけではない。
政府側は個別の招待者に関しては一貫して、「招待されたかどうかということは、これは
個人に関する情報でございまして、お答えを従来から差し控えさせていただいている」(参考:
11月8日参議院予算委員会での政府答弁)といった答弁を繰り返している。また12月2日に国会に提出された各府省庁に残る推薦者名簿は大半が黒塗りにされていた。(参考:
”内閣府 「桜を見る会」の6年分の名簿を提出 ほとんどが黒塗り”|NHK)
こうした
政府の対応の法的根拠はかなり薄弱である。そもそも国が功労功績を認めた名誉ある招待者の氏名・肩書等は、
公表されること自体が名誉にあたるため個人情報の保護対象外である(行政機関個人情報保護法第8条第2項)。例えば総務省の資料でも、本人の利益や社会公共の利益がある場合等には行政機関が個人情報を目的外に利用・提供可能としており、具体例として宮内庁が「勲章・褒章拝謁者名簿」を報道機関に例年渡していることを挙げている。(参考:
”行政機関等個人情報保護制度の概要”|総務省*p.13)また内閣府自身も男女共同参画局を中心に複数の表彰や賞の授与をしており、それらの名簿等は広く公開されている。
(参考:
表彰|内閣府男女共同参画局)
叙勲者をはじめ国による表彰・栄典を受けたひとびとの名簿や園遊会の招待者名簿等が公開されているにもかかわらず、桜を見る会の招待者名簿のみが黒塗りだらけというのはどう整合的に説明できるのか。それとも来年からは、「今年の春の叙勲は、担当者の記憶によればだいたい××名ぐらい、受賞者名は個人情報のため非公開です」と語るアナウンサーの滑稽な姿をわれわれはテレビで眺めることになるのだろうか。
整合性という点でいえば、周知のとおり、桜を見る会当日の様子を撮影した写真や動画はおびただしい数がSNS等へ投稿されており、各報道機関も映像を放映しているのに加え、
首相官邸までもがYouTubeの公式アカウントで動画を公開している。
「招待されたかどうかということは、これは個人に関する情報でございまして、お答えを従来から差し控え」るのに、招待者へ事前にSNS等への投稿を禁止するようアナウンスした形跡もなければ、
官邸自身が当日の動画をYouTubeにアップしているのである。個人情報云々は政府が答弁を拒否するための方便以外の何なのであろうか。
さて、5月21日に宮本徹議員に対し「破棄した」と答えていた桜を見る会の招待者名簿に関して、
12月2日に突如として重要な情報が政府側から相次いでもたらされた。
内閣府の文書は
シンクライアント方式(ユーザー側のクライアント端末はごく一部の処理にとどめ、ほとんどの処理をサーバー側で行うシステムアーキテクチャ)によって管理運用され、
文書の削除後も一定期間バックアップデータが存在しているとの事実が、菅官房長官の定例会見、そして同日の参議院本会議での安倍首相の答弁によって明らかにされたのである。
内閣府が採用しているシンクライアント方式の技術的仕様については今後明らかになってゆくだろうが、その後、バックアップデータの保存期間は「最長8週間」であること、また招待者名簿データの共有サーバーからの削除は5月の7~9日頃に行われたとの内閣府の答弁があったことから、「破棄した」と5月21日に答弁したはずの文書データが、実はその時点でバックアップ中に残存していた可能性が高く、
当時の政府答弁はその事実を意図的に伏せた形で行われたことが判明したのである。
虚偽答弁ではないかとの指摘を受けた政府側の主張は、以下のような驚くべきものだった。
「
バックアップデータは行政文書には該当しないことから情報公開請求の対象にはならないとこういう風に聞いています」(参照:
テレ東ニュース)
12月4日の菅官房長官の定例会見での発言である。語尾に
「聞いています」を付けることで最終的な責任を内閣府の官僚になすり付けた言い回しも嫌らしいが、むしろ重要なのは
、菅官房長官はここで、内閣府は「バックアップデータ」なる行政文書でも何でもない、国民の誰も中味を知ることのできない得体の知れないものを、国民の税金を使って管理運用していると言ってのけた点である。
なお、参院予算委員会に提出された資料によればシンクライアント方式でのシステム導入費と4年間のランニングコストは132億8400万円だという。(参照:
森ゆうこ議員のTwitter投稿)
消費税増税など国民の負担が増大してゆく中で、
「バックアップデータ」という名の虚無のために多額の税金を投入し続けるとは、わが国の財政はずいぶん豊かだったのだなとたいへん感慨深い思いである。