上手くいくセッションでのセラピストの反応の特徴は、
悲しみと幸福の混ざり合った表情を見せる、というところでしょう。クライアントが話すネガティブな出来事に対し悲しみ表情で返すことで、クライアントが抱えている苦しい想いを
理解していることや共感していることを伝えることが出来ます。そして
クライアントの笑顔に合わせ、幸福表情を見せることでクライアントに安心してよいことを伝えることが出来ます。
問題解決のために具体的な方法を提案し、理性的な言葉を紡いでいく前にセラピストがしていることは、
クライアントの気持ちに寄り添うということがわかります。クライアントの
気持ちを理解し、感情を受け止める。感情が受け止められると、私たちは安心し、理性的な言葉を受け入れる準備が出来るのです。
プロの心理セラピストのこうしたスキルを私たちのまわりの聞き上手の方々は持っているのではないかと想像出来ます。
聞き上手は、私たちの話を
ただ単に聞いているだけではありません。私たちの話をよく聞き、
適切なタイミングで適切に返答してくれるのです。言い換えるならば、私たちの感情を受け止め、共感してくれるです。そして私たちに「この人なら安心して心を開くことが出来る」と思わせてくれます。
日頃から聞くことよりも話すことの多い方は、ときに
聞き上手の役を演じることをおススメします。
相手の表情の変化から感情の流れを読むことを意識し、その感情に沿った表情や言葉を、ここぞというタイミングで返す。あくまでも
話し手が主役で自分がわき役と言う主従関係は崩さない程度で言葉を返します。
聞き上手になることで、ときに相手がこんなにも深い存在なのだと気付くことがあります。また様々な人が相談してくることで多彩な情報が集まって来ます。どんなにIT技術が進歩しても
最も大切な情報は人を介してしか交わされません。
あなたが人事ならば、そうした情報を活かして、適切な人員配置が出来るでしょう。あなたがチームリーダーならば、メンバー一人一人をより理解することが出来、チームのモチベーションを刺激する材料を手に入れることが出来るでしょう。あなたが交流会によく出席する方ならば、誰と誰がタッグを組めば、ビジネスが進展しやすいかわかるようになるでしょう。
様々な情報がネット空間を交錯する現代においてこそ、ネットにはない人を介してのみ得られる情報に価値が生まれるでしょう。そんな情報を得て伝えるために、
相手の表情を直接観て、自分の表情で直接伝えられるスキルは今後、ますます重要性を帯びてくるのではないかと思います。
参考文献
Bänninger Huber, E.(1992). Prototypical affective microsequences in psychotherapeutic interaction. Psychotherapy Research, 2, p291-306.
<文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『
ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『
「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『
0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。