フンさんから話を聞いた時、彼はすでに入管に出頭し、送還が決定している状況だった。
「実は、1週間前に母から電話があったんです。私の父は以前から癌で入院していたのですが、『お父さんの容体が悪くなった。いつ亡くなるか分からない。早く帰ってきて』と泣きながら言われました。借金はまだ20万円ほど残っていますが、いまはお金よりもお父さんのことが大事です。一日でも早くベトナムに帰ってお父さんに会いたい」
フンさんにとって日本はどういう国だったのだろうか。
「来日前は、ベトナムや中国、韓国は良い人も悪い人もいる『普通の国』だけど、日本は良い人しかいない『良い国』だと思っていました。でも、実際に来てみたら日本も他の国と同じ『普通の国』だということが分かりました。言われてみれば当たり前のことなんですが、それが分からなくなるくらい、日本は特別な国だと思っていたんです」
別れ際に「もう一度日本に来たいか」と聞いたら、「ノー!」という即答が返ってきた。フンさんの背中を見送りながら、日本が何を失っているのかが分かったような気がした。
◆ルポ 外国人労働者第4回
<取材・文/月刊日本編集部>
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