判決は
<2 争点2(違法性阻却事由の有無)について>でこう書かれている。
<原告が職員を自殺に追い込むような言動を行う人物であることを示すものであり、原告の社会的評価の低下に強く関係する重要な部分であるところ、この事実を真実と認めるに足りる証拠はなく、かえって、被告は、原告の言動を直接受けた大阪府職員が自殺した事実がないことを認めており、本人尋問でも、原告の言動を直接受けた職員が自殺した事実を認識していたものではない(同事実が真実であると考えていたわけではない)旨の供述をしていることからすると、本件投稿における事実摘示の重要部分である「原告の言動を受けた大阪府職員が自殺した」という事実が事実ではなく、また、同事実について被告が真実であると信じていたと認められないことは明らかである。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、本件投稿による被告の名誉棄損行為について、真実性の証明による違法性阻却は認められず、被告の故意、過失も否定されない>
ここでも、元ツイートは「原告の言動を受けた大阪府職員が自殺した」という事実を適示したと解釈して、そのような事実の真実性がないと判示している。
末永裁判長は元ツイートの記述が真実かどうかを重視するなら、N参事の自殺と橋下氏の言動の関連性の有無を検討すべきだった。N参事がなぜ自殺したかを究明するには、「商工労働部商工振興室経済交流促進課国際ビジネス交流グループ A参事(N参事)の現職死亡に関する調査報告書」(2011年2月総務部人事室)と「商工労働部幹部及び職員に対する聴取録」が欠かせない。
裁判長は岩上氏の弁護団の要請を受けて、府に調査報告書の任意提出を求めたが、府側は拒否した。裁判長は弁護団が求めた提出命令を却下した。末永裁判長はN参事自殺の真実解明を拒んで、元ツイートの記述の真実性を否定したのだ。
さらに判決は
<3 争点3(原告の損害の有無・内容)について>でこう述べた。
<被告は、テレビや雑誌で活動する著名なジャーナリストで、18万人のフォロワー数は18万人を超えており、拡散力、信用力が大きい>
<被告の本件投稿による名誉棄損行為により原告が被った精神的苦痛を慰謝するための金額は、30万円と認めるのが相当である。
人の社会的評価を低下させる名誉棄損行為があれば、それにより精神的苦痛という損害は直ちに発生するというべきであり、その後の被害者の行為により損害が消滅したり相当因果関係がなくなるものではないから、被告の主張は失当である>
報告集会で語る岩上安身氏
橋下氏の訴訟がスラップ訴訟であるとの岩上氏の反訴については、こう述べている。
<「被告による本件投稿について不当行為が成立し、原告にこれと相当因果関係のある損害(慰謝料)が認められる。」という原告の主張に理由があることは上記1ないし3で説示したとおりであって、被告の主張する名誉棄損訴訟におけるスラップ該当性の要件を前提としたとしても、本件提訴がスラップに該当する余地はないといわざると得ない>
判決は、原告は被害を受けているから違法な裁判ではないと判断した。しかし、橋下氏に損害が発生したか具体的に認定せず、一般論で社会的評価を下げる表現があれば精神的苦痛を被るとしか述べていない。
意見の表明と事実の適示の区別も曖昧だ。元ツイートでは、生意気な口をきいた相手の幹部の中に自殺した人が含まれているとは書いていないのに、判決は幹部の誰かが自殺したと読んでいる。
判決に何度も登場する「一般的な閲読者の普通の注意と読み方」というフレーズは、抽象的だ。裁判官たちは一般閲読者を自分たちの頭の中、机上で考えたのではないか。
西晃弁護士は「橋下氏は知事時代に生意気な口をきくなどの威圧的な言動を繰り返し、部長会議で罵倒された商工労働部長の部下であるN参与が入水自殺した。橋下氏は『現場の一職員の判断』を強く非難した。その職員の上司がNさんだった。Nさんは部長会議に出ていなかったが、商工労働部長から繰り返し批判され、職員と部長の板挟みになって自殺した。ところが、判決は、橋下氏が叱責した幹部の中の一人が自殺したと勝手に読んで、事実がないと判示した」と話している。
<文/浅野健一>
あさのけんいち●ジャーナリスト、元同志社大学大学院教授