「SNS閲覧者はリンクなどを検索しない」という決めつけ
岩上安身氏(右端)
岩上氏側は、橋下氏が知事として職員を威圧しており、自殺した職員の負荷過重性を形成した過程に関与し、職員が職務上の負荷を理由に自殺を図ったという事実が問われており、橋下氏が職員に直接圧力をかけて自殺に追い込んだか否かではないと主張していた。
また、橋下氏が職員を自殺に追い込んだという記事は、元リツイートの約5年前から『FRIDAY』(講談社)などで何度も報道されていたと主張していた。
これについて、判決は次のように述べている。
<大阪府職員の自殺に関する先行情報のほとんどは、本件投稿から約5年あるいはそれ以上前の平成22年ないし平成24年の出版物であり、本件投稿時点において、本件投稿に係る大阪府職員の自殺に関する報道や出版物等の内容は、検索機能を通じてネットニュースや大阪府ホームページ等で確認することができるにとどまると解されることに鑑みれば、本件投稿の一般的な閲読者の注意と読み方を判断するにあたり、一般的な閲読者が、被告指摘にかかる上記先行報道の内容を認識していることを前提とすることは相当とはいえない。
また、本件投稿の一般的な閲読者(受信者)の注意と読み方を判断するにあたり、発信者である元ツイート投稿者や被告の、表現内容に現れていない内心の意図を考慮することも相当であるとはいえない>
<自ら新聞や週刊誌を購入・閲読する読者に比して、受動的な立場で情報に接する側面があることは否定できないことからすると、そのようなツイッターの一般の利用者(閲読者)は、必ずしも、本件投稿に表示されたリンク先のウェブページや本件投稿に先立つ原告のツイート内容まで逐一確認するとは認め難いというべきである。
したがって、本件投稿の一般的な閲読者の注意と読み方を判断するにあたり、一般的な閲読者が、上記リンク先の記事や本件投稿に先立つ原告のツイートを認識していることを前提とすることも相当でない>
末永裁判長らは、関連の記事などを検索しようとする閲読者はいないとどうして言えるのだろうか。自らお金を出して新聞や週刊誌を読む読者に比べて、受動的だというのは、ネットやSNSの利用者を蔑視しているのではないか。SNSの閲読者には積極的な読者も多く、興味関心を持てばリンク先から情報を得ることが多い。
<閲読者が元ツイート投稿者や被告の、表現内容に現れていない内心の意図を考慮することも相当ではない>というのだが、その根拠は示されていない。
判決は<表現の中心的部分は「大阪府知事であった原告が、大阪府の幹部職員に対して生意気な口をきき、当該幹部職員の誰かを自殺に追い込んだ」との事実を摘示する部分というべきであるから、本件投稿が意見・論評の表明であるとの被告の主張も採用できない>とも判断した。橋下氏は公人であり、リツイートが論評であるという主張を退ける根拠は示されていない。
「独自に裏付け取材したという証拠を出していない」と、真実性も否定
判決は
<ウ 本件投稿による原告の社会的評価の低下の有無について>で次のように述べている。
<本件投稿の一般の閲読者の注意と読み方を基準とすれば、同事実は、原告について、部下職員を自殺に追い込むようなパワーハラスメントを行った人物であるとの印象を与えるものであるから、本件投稿は原告の社会的評価を低下させる表現であると認められる>
<そもそも、本件投稿が、人の社会的評価を低下させる表現である以上、本件投稿が摘示する事実が既に他の表現媒体によって報道等されているか否か、公知の事実となっているか否かにかかわらず、原告の名誉を棄損することに変わりはなく、原告に対する不法行為を構成するものというべきである>
リツイートの内容は、橋下氏の名誉を棄損するものであるから、リツイートも名誉棄損に当たるというのだ。岩上氏のリツイートは公益目的による表現であり、真実性や真実相当性もあるという主張をことごとく排斥した。
橋下氏が他の職員への威圧的言動を繰り返していた事実についても、独自に取材、裏付け取材をしたという証拠を出していないと言い切った。