審議会に諮問された「幸福の科学大学」の「教育」と、その問題点

外部の学会でもオカルト研究発表

 前出の以前筆者が書いた記事で、HSU祭において宇宙人の解剖模型展示や、コンピューターに仏法真理(幸福の科学の教義)を教え込むAI(人工知能)開発プロジェクトの展示があったことを紹介した。「悟りの次元」を判定したり「宇宙人の善悪を見極める」ことができるというスゴイAIだが、このプロジェクトの発表者の欄にはHSUの学生だけではなく「プロフェッサー」(つまりHSUにおける教授)の名も記載されていた。  学祭における学生のおふざけではない。教員まで一緒になってこんな研究をしている。彼らは本気なのだ。
HSU祭で展示されていた宇宙人の解剖模型

2016年HSU祭で展示されていた宇宙人の解剖模型(読者提供)

 HSU生が外部の学会で学生が研究発表を行うことがある。2016年に札幌で開かれた「第17会計測自動制御学会システムインテグレーション部門講演会」では、1人の学生が佐鳥新・HSUプロフェッサーと共同で行った「脳波測定におけるθ波の独立成分分析」という研究を発表した。  脳波や脈拍などの測定方法に関する内容だ。それ自体は専門的なもののようで、私には何が何だかわからない。気になったのは、発表資料の冒頭に掲載されていた研究目的。 〈たとえば、心理学者ユングは集合的無意識という概念を唱えた。これは、人間の無意識の深層に存在する、個人の経験を越えた先天的な構造領域として定義される。ここにおいて特徴的な現象として、「シンクロニシティ・共時性」がある。かけようと思っていたら相手から電話がなる、離れた場所でほぼ似た出来事が示し合わせたように同時刻に起きる、など単なる偶然と考えるにはあまりにも確率が低い現象がしばしば起こることを指す。もし集合的無意識が実在し、この共時性というものを昨今の生体測定方法により定量的に扱えるようになれば、新しい通信方法として使える可能性がある。〉(研究発表資料より) 〈本研究の目的は、統合的生体センサシステムの構築および生体と精神の相関の定量化の新たな指標の探求である。そして、「睡眠麻痺」状態を足がかりとして、人間と集合的無意識の存在の検証およびその通信のメカニズムを解明していきたいと考えている。〉(同)  平たい言葉で要約すれば、テレパシーを新たな通信技術として使えるようにするための研究ですよ、というのだ。
テレパシー

いらすとやより

 共同研究者である佐鳥氏は、北海道衛星株式会社の代表取締役としてHSU開設前から人工衛星関連事業を手掛けてきた幸福の科学信者でもある。教団公式サイトに掲載されたインタビューでは、大川総裁が呼び出した宇宙人の霊言を研究の参考にしていると語っている。 〈宇宙人リーディングは、さまざまな星から来た宇宙人によって、母星の様子や彼らの持つ科学技術など、他では知り得ない情報が数多く語られているので、非常に知的好奇心が刺激されます。  特に、宇宙人たちが「ワームホールを使った長距離移動」や「タイムスリップ」などについて語っているところは、地球においても「未来科学」を実現していくヒントが多数含まれており、研究する上で非常に参考になっています。〉(同インタビューより)  大学院時代に幸福の科学の書籍を知人から渡され教義を学ぶようになって以降について、こうも語っている。 〈学びを深めるうち、時折、幽体離脱して宇宙を見たり、霊界に行って霊人と対話したりと、神秘的な体験をするようになったんです。そうしたなかで、次第に霊的世界への確信が深まっていきました。〉(同)  もちろん、信仰は自由だ。宗教的なものに限らない。UFOだろうが宇宙人の存在だろうが、その他どんなに荒唐無稽な世界観であろうとも、信じるのは自由だ。もちろん、信仰が科学的探求のモチベーションになっていたって構わないだろう。  問題は、こうした人物がオカルト的な世界観と学問を混同した教育を現に行っているという点。そしてこの佐鳥氏に限らずHSUや学校法人関係者らが一貫してそういった研究や教育を目指している点だ。  前回の大学設置申請が不認可とされた理由そのものだ。審議会は、同大学の全学部共通科目の教材となっていた大川隆法総裁の著書に、霊言を科学的に証明されたものとする趣旨の記述があることを理由に「不可」と答申した。審議会が例示した書籍には、前出の「大学シリーズ」も含まれている。

マトモな教育を受ける権利

 10月に幸福の科学大学の設置認可が再申請されたニュースに関連して、Twitterなどでは「信者以外は行かないだろう」といった類いの感想が見られた。実際、そうだろう。前出の通り大川総裁自身が「狂っているようにこの世的には見える」と認めている大学だ。  しかし、だからといって私たちに無関係な問題かと言えばそうではない。  私が最も重視するのは、若い信者の人権問題としての側面だ。前述のように、幸福の科学では2世を中心とする若い信者に対してマトモな教育を受ける権利が阻害されている。それが特に徹底して行われているのが、生徒たちが寮生活をしながら教義と学問を混同した教育漬けにされる幸福の科学学園とHSUである。  大学として認可するということは、文科省までもが、未成年信者の人権に関わる教団の教育事業にお墨付きを与えるということだ。なおかつ助成金等として我々の税金が人権侵害集団に投入されることになる。  若い信者が「進学も就職も放棄する」という前述のような状況も、カルトにおける人権問題のひとつとして極めて深刻なものだ。これは大学が認可されれば解消されるが、同時に別の新たな問題が発生する。現在、無認可のHSUに在籍している約1000人の「学生」たちの処遇だ。  HSUでは学部によって多少の差はあるが入学初年度に入学金や寮費を含め計180万円前後から190万円前後の費用がかかる。彼らは、大学が認可されただけでは「大学生」になれない。何年生であろうと、大学認可後にまた1学年から入学する必要がある。  そうしなければ、同じカネと時間を割いて千葉県長生村のキャンパスに通う若い信者たちの間に、「教団施設で仕事もせず学校にも通わない4年間を過ごした高卒者」と「神の大学を卒業した大卒者」という格差が発生する。  厳密に言えば、これは文科相が大学を認可することによる問題ではなく、教団が認可のないまま「HSU」を開設し学生をかき集めてしまったと結果だ。学歴にならないHSUに入ったことですでに教団に人生を翻弄されている若い信者が、大学が認可されればもう一度振り回される
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幅広い分野でも学問の危機
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