スペイン総選挙、「極右躍進」報道は一面的過ぎ。実際には、「分断」がより複雑に進む
右派色を強めたシウダダノスの誤算
今回の選挙で最大の過ちを犯したのはシウダダノスのアルベール・リベラ党首である。前回の選挙で57議席を獲得しておきながら僅か6か月で47議席を失い10議席しか獲得できなかったのである。僅か半年間で250万票を失ったのである。
スペインが民主化になって以来、今回のように大幅に議席を減らしたのは1982年の中道民主同盟が168議席から157議席を失って11議席しか獲得できなかったというケース以来のことである。
シウダダノスが47議席も失うという事態を導いたのは次のようなミスをリベラが犯したのが要因である。
4月の選挙で57議席を獲得した時に社会労働党の123議席とで連立すれば180議席となり、過半数の議席(176)を確保し安定した政権を誕生させることができた。シウダダノスはもともと中道派で、蝶番のような役目をするために誕生した政党である。ところが、リベラはサンチェス首相がカタルーニャ独立を企む州政府に便宜を図るような姿勢に反対していた。
シウダダノスはカタルーニャで誕生した政党で、カタルーニャの独立には強く反対している。またリベラは4月の選挙で国民党が大幅に議席を減らして66議席となり、その票差は僅か20万票ということで、国民党を追い越して右派を代表する政党に育てようとした。そして5月の地方選挙でも国民党を追い越そうとしたが、結果は彼の望む通りにはならなかった。それでも地方自治体の政権を担うために多くの自治体で国民党と連携した。本来、中道を目指した政党が中道から右派に方向転換しているように国民から見られるようになった。
当初、シウダダノスに投票した有権者の多くが国民党の政治に不満で、中道でも右寄りのシウダダノスに投票した。同様に社会労働党に投票していた有権者の一部もカタルーニャ問題に反対を断固唱えるシウダダノスに投票した。
ところが、リベラが右派の代表政党になることを目指すようになった途端、社会労働党からシウダダノスに投票した有権者は右寄りになる政党には興味ないとして支持しなくなった。また、国民党から流れて来た有権者も中道を忘れて右派になるのであれば国民党への支持に戻るという結果になったのである。それが今回の選挙で250万票を失う結果となったのである。
その反面、今回の選挙で一番成果を出したのは極右政党ボックスである。ボックスの党首サンティアゴ・アバスカルは1994年まで国民党に籍を置いていた。ラホイ前首相の優柔不断な政治姿勢に反対して同党の一部議員と2013年にボックスを設立した。
ボックスの政策の主なものは次のようなものである。
・スペイン国家の統一を損なっている自治州制度を廃止して中央集権体制の強化。
・スペイン語を全国レベルで公用語とさせ、カタラン語などの教育は二次的なものにする。
・キリスト教を尊重し、イスラム原理主義教会の閉鎖、刑法の強化。
・移民を制限し同じ言語のラテンアメリカからの移民を優先。
・EUにおいてまず加盟国家を優先させ、委員会はそれに準ずるものとする。
ボックスが今回の選挙で議席を大きく伸ばした要因は二つある。
カタルーニャの独立問題とフランコ将軍の棺が戦没者慰霊の谷の大聖堂に埋葬されていたのを掘り起こして移送しエルパルドの国立墓地にフランコ夫人の傍に埋葬されたことである。特に、フランコ将軍の棺の掘り起こしの時点からボックスへの支持者が急激に増えたことが選挙予測統計専門家の間で明らかにされている。
もう一点付け加えると選挙前に行われた5党首が集まってのテレビ討論でアバスカルの主張に他の党首からの反論が少なく、それがまた票を伸ばした要因だと専門家は挙げている。サンチェス首相は他政党党首からの批判に終始防戦気味で討論を何とか切り抜けたという印象を与えた。(参照:「El Pais」)
また、ボックスがイデオロギーの違いを越えて幅広く労働者層からの支持を集めていることもある。今回もボックスに流れた票の一部には社会労働党にこれまで投票していた有権者が投票したということも明らかになっている。従来の政党ではカタルーニャ問題や不法移民問題を解決してくれないという有権者の不満がボックスへの支持に変化したのである。
ちなみに、極右政党らしく、今回の選挙でボックスが構えた本部への立ち入りを禁止されたメディアもある。“同党のことが正確に報道されていない”という、トランプ大統領のような言い分がその理由だ。禁止されたのは、スペイン代表紙『El País』やラジオで最も高い聴率を誇る『Cadena SER』などが含まれていた。
極右ボックス躍進の背景
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