スペイン総選挙、「極右躍進」報道は一面的過ぎ。実際には、「分断」がより複雑に進む

辛くも第一党を維持した社会労働党

辛くも第一党を維持した社会労働党とペドロ・サンチェス首相(真ん中)
(Photo by A. Ware/NurPhoto via Getty Images)

スペイン総選挙、中道左派が第一党を守るも極右躍進

 11月10日、スペインの総選挙が行われた。今回の選挙は、4月28日の総選挙で社会労働党が勝利したものの、過半数の議席(176議席)を得ることが出来ず、他政党との交渉でサンチェス暫定首相は連立政権などを模索したが結局他政党からの協力を得られずに行われることになった「再選挙」であった。  そんな経緯の再選挙の結果を受けて、12日、ペドロ・サンチェス首相率いる中道左派の与党社会労働党とポデーモスが連立政権を誕生させるための合意が結ばれたことが発表された。  しかし、首班指名で承認されるための必要な議席数の確保の最終確認はまだ済まされていない。  今回の選挙における全国レベルの政党の前回の議席数と今回獲得した議席数を以下に示す。 社会労働党(中道左派):123議席⇒120議席 国民党(中道右派):66⇒88 ボックス(極右):24⇒52 ポデーモス(急進左派):42⇒35 シウダダノス(中道右派、反カタルーニャ独立):57⇒10 マス・パイス(新興左派):0⇒3 複数の地方政党:38⇒42

サンチェス首相や各政党が陥ったジレンマ

 選挙結果は16政党が議席を獲得することになり、しかも与党の社会労働党が議席を減らし、極右政党ボックス(Vox)が大幅に議席を伸ばすなどして前回の選挙よりも内閣を誕生させることがより難しいものとなった。  というのも、例えば、これまで与党として政権を担って来た社会労働党が首班指名で過半数の議席を確保しようとすれば同じ左派系の政党からの協力を得ようとした場合にポデーモスとマス・パイスの議席を足しても158議席にしかならないからだ。そのため、過半数の176議席を確保するには地方のナショナリズム政党に議席を借してもらうことが必要となる。  ナショナリズム政党の中でも協力してくれる可能性のある政党は、カタルーニャの共和党左派やバスク国民党になり、そのためには勿論交換条件が必要になる。特に、共和党左派は現在カタルーニャの独立を主張している政党である。そこから議席を借りることになるとスペイン政府がカタルーニャの3政党による独立への動きを阻止できなくなる。だからサンチェス首相は独立を望む政党から票を借りることは極力避けている。  しかし、右派の国民党にとっても難しい状況なのは同じだ。国民党が政権獲得に動こうとするとボックスとシウダダノスとカナリア諸島の右派の2議席を加えても152議席にしかならないのだ。  結局、左派も右派も政権を担うだけの過半数の議席が確保できないのである。首班指名には最初の投票は過半数の票が必要であるが、2回目の投票では反対票を上回るだけの支持票で良いということであるが、地方政党の議席数は今回は42議席ある。その一部が首班指名に反対票を投じると支持票を上回る可能性もある。結局、今回の選挙結果は政権誕生を前回よりもさらに複雑にしているというのが正解である。
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右寄り路線で失敗したシウダダノス、躍進した極右のVOX
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