地方創生にゆるく携わる人を増やす。マグマシティ・鹿児島市の取り組みとは

鹿児島市

地方創生の「関わりしろ」。鹿児島市の事例

 鹿児島市は人口約60万人が暮らす都市。西郷隆盛や大久保利通など、日本の近代化に大きく貢献した偉人の生誕地として知られる。また、「名山」と称されるほどの雄大な桜島はもとより、約270もの数を誇る源泉や、さつま揚げ、黒豚、焼酎に代表される食やお酒など、観光地としても国内外のツーリストから親しまれている都市である。  さらに、都市機能が中心地に集中しながらも、郊外へ車を走らせれば、豊かな自然の恵みが豊富だ。そんな薩摩の歴史と桜島に代表される風光明媚な景観を持つ鹿児島市だが、2019年3月には「あなたとわくわく マグマシティ」をコンセプトに、市内外問わず「鹿児島ファンを増やす」ための取り組みやまちづくりを推進している。  その一環で企画されたのがかごコトアカデミーだ。以前、取材した「『地域外の人との交わり』がないと地方は死ぬ。生き残りを賭けた飛騨市の取り組み」の中で語られていた関係人口を育成するための講座や、鹿児島市現地のフィールドワークを通して「関わりしろ」を発見するプログラムが用意されている。  今回は筆者が現地フィールドワークに参加し、鹿児島で行われているまちづくりの事例をもとに、鹿児島市との関わりしろについて考察していきたいと思う。

人間関係の希薄化をなくしたい。「騎射場のきさき市」の取り組み

 鹿児島中央駅から市電を使って10~20分ほどで「騎射場」駅に着く。この辺り一帯は、かつて薩摩藩が騎乗して弓を射る場として使っていたことから、この名が付いたとのこと。  騎射場「のきさき市」は、軒先やガレージ、空き店舗を使ったフリーマーケットイベント。2015年から開催されている。騎射場の魅力を、より多くの人に知ってもらいたいという想いから企画がなされてきた。京都・五条で行われている「のきさき市」から着想を得たと話すのは、騎射場「のきさき市」 代表の須部貴之氏。 「京都の五条で開催される『のきさき市』を訪れた際、空いた軒先やスペースなどの遊休資産をうまく活用して出店していたことに着目した。休日になるとシャッターが下りてしまったり、空き店舗になっていたりする場所を利用し、マルシェを開催すれば騎射場に人が集うようになって交流が生まれると考えた」  騎射場周辺には、志學館大学や鹿児島大学、その他専門学校などが点在しているため、大学生や留学生が多く住んでいる。また、騎射場を拠点に長年営業している個人経営のお店もある一方で、地域に住む人同士が交流する機会を作れていないことに課題を感じていたのだという。  そこで、騎射場の商店街会長や鹿児島市の協力を仰ぎながら、遊休資産を抱えているオーナーらに軒先を貸してもらうことで、騎射場「のきさき市」の開催に至ったのである。  会を重ねるごとに参加者やボランティア、実行委員会の規模が大きくなっていき、騎射場に住む学生や主婦、転勤族といった地域住民同士の繋がりが醸成されていった。 「人なくして地域なし。地域なくして事業なし。騎射場という場所で人の心が通い合い、地域を愛するようになれば様々な化学反応が起きて街の活性化に繋がる。そう信じてこれからも騎射場のきさき市を続けていきたい」(須部氏)
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歴史ある東郷音楽学院を卒業生らが継承
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