現在チリでは、「
もうメディアは信用できない」「
テレビをつけるな」「
メディアは政府に買われた」とデモ参加者が口を揃えていう。「
反大手メディアデモ」が、デモの一つとして行われているのも事実だ。
ここで説明したいのは、毎日様々なデモが同時進行されている。「
ピニェラ大統領の辞任」を求めるデモがあれば、医学生や医学関係者は厚生省(Ministerio de Salud)の前で、「チリの公共医療制度に問題はない」と断言した
健康大臣(Ministro de Salud)のMañalich(マニャリック)の辞任を求めるデモ、または
水道の民営化の廃止を求めるデモが同時に進行されていたりする。
この他には安全で合法な中絶を求める、南米アルゼンチンで始まったムーブメント「Ya Aborto Legal」のシンボルである緑のバンダナを身につけ、声を上げる人もいれば、最低賃金や年金制度の見直しを求めるデモも行われている。
チリの旗、チリの先住民族「マプーチェ族」の旗を振りながら声を上げるチリ人達。「Chile Despertó」(チリは起きた)と歌いながら、旗を振ったり、楽器を引いたり、踊ったりしている人もいる。
メディアへの不信感が高まる中で、今チリの独立したメディアPIENSA.PRENSA (香港の非営利団体HK FREE PRESSのチリ版)などが、国民が訴える場所で必死に真実を自分たちのメディアやSNSを通し拡散している。
10月22日にシェアされたのは、Juventudes Comunistas de Chile (チリの共産主義の学生団体)のアクティビストが三人、警察によって家から引きずりだされ、拷問を受け、逮捕されたことだ。
ツイッターでアクティビストの一人、Valentina Mirandaはこう語った。
「Gracias a todas y todos por sus muestras de apoyo ante mi detención ayer junto a mis compañeros Pablo y Anaís,
La violencia desatada por este gobierno contra quienes nos manifestamos legítimamente no va a callar la voz de un país que se cansó de tanta injusticia」(昨日、同じ団体のパブロとアナイスと私自身の逮捕にあたりサポートや応援の声を感謝します。法に反する事なく声を上げる私たちに対し、行われた国の暴力は、不公正な制度に疲れた私たちを消して、黙らす事はできません)(
Valentina MirandaのTwitterより)
さらには、SNSの力により、家から引き出されるアクティビスト、政治色関係なく人権侵害に対し発言するアクティビストを逮捕する様子も拡散され続けられている。
「発言の自由」が守られるはずの国で、政治的な主張をしているアクティビストが無断に逮捕されている事に対し、アクティビストのValentinaをはじめとする多くの人が国を起訴している。
平和なデモでも、催涙ガスを容赦なく投げる警察、ライフルを持って街を歩いている軍人、さらには警察により殺害されたチリ人たち。これ以上犠牲者を出したくなくても、その命が無駄にならないようにチリ人たちは声を上げ続けているのだ。
その中で、少しチリの国民に対し希望が訪れた。それは、国連の人権委員会がチリの現状に対して声を上げ、チリに人権委員会や人権NGOがくるという事になったのだ。
そして10月28日、これを機にチリ政府は「緊急事態」を取り消し、外出禁止条例をなくした。希望、になるはずだった。しかし、同日に、来ることになっていた人権委員会が来ないというニュースが流れたのである。希望から一転、国民は絶望に突き落とされたのだ。
外出禁止条例が最後に発令されたのは、1973年から1990年のピノチェの独裁者政権以来のことになる。しかし、今のチリもピノチェに近い保守派の政権であり、軍人や警察に対し恐怖を抱いている。
さらには行き先が未だ明確でない4000人を超える逮捕された人達、日に日に増える「家から引きずり出される活動家」などのニュースに、人権やフェミニズム、動物愛護のアクティビストである自分も、正直恐怖を抱いている。
そして、11月に行われる予定だったAPEC (アジア太平洋経済協力)の首脳会議、12月に開催されるはずのアクティビスト、グレタ・トゥーンベリさんも参加予定だった環境会議「COP25」の開催を中止する事をチリ政府は30日に発表した。
ピニェラ大統領の発表により、一気にまたチリの中で「絶望」が増したのであった。