世界に蔓延するネット世論操作産業。市場をリードするZTEとHUAWEI

ネット監視イメージ

Pete Linforth via Pixabay

 世界各国の国政を左右する選挙でネット世論操作が行われるのは当たり前になった。  前回は、世界のネット世論操作を網羅的に調査したレポート『The Global Disinformation Order: 2019 Global Inventory of Orgazised Social Media Manipulation』(Samantha Bradshaw & Philip N. Howard, Working Paper 2019.3. Oxford, UK: Project on Computational Propaganda. comprop.oii.ox.ac.uk. 23 pp.)などの資料を紐解き、世界70カ国で確認されている「ネット世論操作」と、それを産業として行う企業がどのようなサービスを提供しているかについて説明した。  今回は、こうしたネット世論操作産業の市場をリードするZTEとHUAWEI、2つの中国企業について焦点を当ててみたい。

監視ビジネスの最先端を走るZTEとHUAWEI

 監視ビジネスにはインフラに近い総合的ソリューションを提供するビジネスもあり、その最先端にいるのが中国のZTEとHUAWEIである。  ロイターのレポート『Special Report: How ZTE helps Venezuela create China-style social control』(2018年11月14日、ロイター)によると、ZTEはベネズエラ政府に国民生活のほぼ全てを監視できるソリューションを提供した。なお、この記事は昨年のものなので、グアイドー台頭によって状況は変化している可能性がある。ここではネット世論操作企業の事例としてZTEがベネズエラの政府のためにどのような国民監視システムを提供したかを示すために紹介する。  ベネズエラ政府はスマートIDカード「carnet de la patria」を配布した。ZTEがそのために開発したシステムには政府が国民を監視、報償、処罰するための機能が備わっていた。  まず、データベースには家族、誕生日、雇用状況、収入、医療記録、政府から得ている補助、SNS利用状況、政党支持、投票などが登録されている。2017年5月にTeamHDPと名乗るハクティビストがベータベースをハッキングし、政府関係者のアカウントを削除し、データを盗み出した。その時のデータには、電話番号、住所、ペットまで登録されていた。  ZTEはベネズエラの国営通信会社Cantvに運用のための人員を派遣していたが、この記事の時点では100名が勤務していたという。アメリカ上院議員のルビオ氏によると、ベネズエラ政権はカードへの依存度を増している。  政府はカードの普及を促すためにカードを取得したものに金銭をプレゼントするキャンペーンなどを行ったり、カードがなければ年金、医療サービス、燃料補助、食料提供などを受け取れないようにしたりした。さらにこのカードはなんらかの方法でカード保持者が選挙の際に誰に投票したかが登録されるようになっていたという。  それだけでなく、『#InfluenceForSale: Venezuela’s Twitter Propaganda Mill』(デジタル・フォレンジック・リサーチラボ*、2019年2月3日)によれば、ネット世論操作を仕掛ける際、拡散に協力してくれたカード保持者のカードのワレットに報酬を振り込んでいたという。 <*アメリカのシンクタンク、大西洋評議会内のプログラム>  拡散活動を行っているアカウント@Tuiteros_Vzlaは1週間で5,800人に謝礼を支払ったとツイートしている。くわしくは過去記事『激動のベネズエラ。斜陽国家の独裁者を支持すべく、暗躍するネット世論操作の実態』(HBOL2019年2月27日)を参照いただきたい。なお、記事中「マザーランドカード」となっているのは、「carnet de la patria」のことである。「carnet de la patria」は直訳すると「祖国のカード」となり、これを英語表記にする際、「Motherland Card」と「Fatherland Card」のふたつの表記方法がある。デジタル・フォレンジック・リサーチラボでは前者、ロイターでは後者の表記を用いていた。  ZTEの構築したシステムは、監視のための機能だけでなく、拡散のための機能も実装した総合ソリューションだったと言える。

使用者の意図によって善悪どちらにも使える

 HUAWEIも負けていない。同社のアニュアルレポート(2017年度、2018年度)には、戦力分野としてAIは当然としてIoTやオールクラウド化があげられ、それらを統合するIOC(Intelligent Operation Center)はスマートシティの頭脳であり、すでに10都市に設置済みという(2018年度アニュアルレポート)。  導入例としてサウジアラビア、南アフリカ、ブラジルなどの名前があがっていた。セーフシティソリューションはすでに700都市へ導入されており、ブラジル、メキシコ、セルビア、シンガポール、スペイン、南アフリカ、トルコなど100カ国を超えるという。導入例では、パキスタン、コートジボワールの名前があった(2018年度アニュアルレポート)。  ZTEやHUAWEIというと通信機器メーカーのイメージが強いが、彼らはすでにネットワークをベースとした包括的な社会システムを提供している。  監視ビジネスで特徴的なのは、ほとんどがDual-Use Technologiesであることだ。使いようによって善用も悪用もできる技術をDual-Use Technologiesと呼び、事業者はあくまでも道具を販売しているだけという。しかし強力なDual-Use Technologiesには政府による規制あるいは事業者による自主規制が不可欠である。たとえば銃器は人の命を救うこともあるが、奪うこともある武器である。ほとんどの国では、譲渡と所持と利用に規制がある。しかしネット世論操作分野についてはほとんどの国に規制はない。また世界全体を見れば人権が充分に保護されていない国の方が多いことを考えると、政府や国家機関が使うDual-Use Technologiesは人権への脅威になり得る可能性の方が高い
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世界に販売されるネット監視ソリューションが民主主義を壊す
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