世界に蔓延するネット世論操作産業。市場をリードするZTEとHUAWEI
ネット世論操作企業の市場動向
◆市場規模
ネット世論操作産業の市場規模を推定することは困難であるが、まずその定義によっても大幅に変わる。たとえばHUAWEIをネット世論操作企業に含めるのか、一部事業だけ含めるにならばそれはどれか? といった基本的な線引きが難しい。さらに、中国系SNSプラットフォームは中国の意向に沿った検閲を中国以外の国でも行っていることが指摘されており、もしそうであるならSNSプラットフォーム自身が監視ビジネスに含まれかねない。さらに拡散ビジネスに携わる集団は表には出てこないうえ、大小無数の業者がいる。
確実に言えるのは、Dual-Use Technologiesも含めて算出した方がよいということだ。なぜなら、世界の圧倒的多数を占める「完全な民主主義」以外の国がその技術を使う場合、その用途は好ましくないものになる可能性が高いからである。世界のほとんどは「完全な民主主義」ではなくなっており、専制主義や独裁はもちろんだが、日本のような「瑕疵のある民主主義」は専制主義や独裁国家と貿易を行い、経済支援や軍事支援を行うことで人権を重んじる旧来の民主主義を崩壊させる手助けをしているのだ。
HUAWEIの監視システムソリューションは法人向け事業に含まれる。その年商は74,409百万元(およそ1.2兆円。2018年度アニュアルレポート)であることから考えても、監視システムソリューションだけの市場でも数兆円規模に膨らんでいることは間違いないだろう。これにNSOグループやZeroFoxのようにツール販売と運用を行っている多数の業者が存在している。
なお、HUAWEIの法人部門の売上げの半分は中国国内であるが、次いで大きなものはEMEA(ヨーロッパ、中東、アフリカ)で全体の4分1を上回る204,536百万元(およそ3千億円。2018年度アニュアルレポート)となっている。
拡散ビジネスの市場規模の推定は監視分野よりもさらに難しい。またどこまで含めるかも難しい。なぜなら明らかに違法と考えられるものもあるからだ。これはあくまで私の意見だが、おそらく攻撃分野の市場規模は防御のそれよりも小さい。ただし、このふたつの市場には大きな違いがある。
監視ビジネスの市場はインフラなどへ投資がかさむ分、導入時の売上げが大きく、市場勃興期は爆発的に成長する可能性がある(つまり今!)。しかし需要が一巡すると、落ち着き、メンテナンスとアップグレード需要中心になる。一方拡散ビジネスの市場は初期投資がかさむことはないものの、人手によるオペレーションやフェイクアカウントやサイトのテイクダウン、検知技術の向上などから定常的に一定の需要が見込まれる。
フェイスブックと中国の寡占状態にあるSNSプラットフォーム

2019年SNSアクティブユーザ数ランキング (statistica調べ)
総合ソリューションとしてパッケージ化されつつあるハイブリッド戦
いちだかずき●IT企業経営者を経て、綿密な調査とITの知識をベースに、現実に起こりうるサイバー空間での情報戦を描く小説やノンフィクションの執筆活動を行う作家に。近著『フェイクニュース 新しい戦略的戦争兵器 日本でも見られるネット世論操作はすでに「産業化」している――』(角川新書)では、いまや「ハイブリッド戦」という新しい戦争の主武器にもなり得るフェイクニュースの実態を綿密な調査を元に明らかにしている
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