極右政権の台頭にヘイトや排外デモ……。現代に響くディランやスライの叫び <戦うアルバム40選 激動の’60年代編>
’10年代も終わりを迎えようとする現在、同年代の初めには想像もできなかったほど、世界は混乱の一途を辿っている。少し前までは恐れる必要さえなくなっていた保守的な価値感覚まで復興。「もう当たり前」と思っていたような民主主義や自由が再び危機にさらされることで、芸術やエンタメの世界でも、社会と今一度向かい合って物申さざるをえないような、そんな状況になりつつある。
今回から4回にわけて始まるこの「戦うアルバム40選」は、世界の音楽アーティストがアルバムという表現フォーマットを通していかに戦ってきたか。また、それらの精神性がいかに今に受け継がれるかを、葯60年の歴史から40枚のアルバムを厳選して紹介していく。
第1回の今回のテーマは「激動の’60年代」。公民権運動に始まりベトナム戦争を経て、それまでの「正義の強いアメリカ」の欺瞞に対して当時の黒人や若者たちの新しい音楽カルチャーが一石を投じ始めた瞬間の名作アルバム10枚を紹介する。
◆『We Insist!』Max Roach(1960)
「アルバム全体で社会問題を表現した歴史上最初のアルバム」かとなると確証こそはできないが、名ドラマー、マックス・ローチによるこの問題作はその有力候補だろう。
黒人が座ることを禁じられた場所に座る抗議行動というアルバム・カバーがまず強烈な本作は、女性シンガー、アビー・リンカーンによる、虐げられたアメリカでの黒人奴隷の歴史とその解放、そしてこの当時に勃興していたアフリカでの独立運動を切々と伝える物語を、先祖回帰を高らかに宣言するかのような実験的なアフリカン・テイストで徹頭徹尾、怒りと誇りと共に肉づけする。
この当時の公民権運動においてさえ、音楽面においては白人リベラルのフォークシンガーか、黒人でもゴスペルでの神への祈りが主流だったが、そんな時代に、黒人自身が反抗と民族主義的アプローチでストレートに訴えかけたこの姿は、黒人たちの音楽での訴えかけの道筋を変えた。
◆『Freewheeling Bob Dylan』Bob Dylan(1962)
アメリカの民謡(フォーク・ミュージック)が労働者の心情と結びつき、資本主義やナチスと戦った歴史は第二次世界大戦前には存在したが、それをアルバムで音楽を聴く時代に、「若者たちの社会への怒り」と共に結実させたのが、“フォークの神様”ことボブ・ディランのこのセカンド・アルバム。
「人として認められるまでの長い過程」に希望と苛立ちを投げかけ、公民権運動のアンセムとなった「風に吹かれて」、キューバ危機で実現を恐れられた核戦争の恐怖を歌った「激しい雨が降る」、世界を戦争への不安と恐怖に陥れる政治家たちを痛烈に皮肉る「戦争の親玉」など、混乱する時代の名アンセムがここにはある。次作『時代は変わる』と共に、’60年代の時代精神を理解するうえで必須の存在だ。
◆『Nina Simone In Concert』Nina Simone(1964)
公民権運動の激動の’60年代、一貫して黒人の誇りと反抗を歌い続けたジャズ界の女性闘士こそニーナ・シモン。このライブ盤はそんな彼女が初めて本格的に黒人たちのプライドのアンセムを歌い始めた最初のアルバム。公民権施行の1年前の出来事だ。
まだ、こうした楽曲の雛形さえできていない時代だったが、「もう、あんたは終わりよ」と米国内で黒人への差別を助長していた悪法の名(「オールド・ジム・クロウ」)で相手を刺激的に挑発する。
アメリカ南部で相次いだ学校爆破などの公民権運動の妨害行為への呆れを歌った「ミッシシッピ・ガッデム」など、稀代の野太く美しい歌声だけでなく、類い稀なプロテスト・リリシストとしての才能を早くから開花させた。以降の60年代のアルバムも黒人社会史には必須の作品ばかりだ。
◆『Keep On Pushing』The Impressions(1964)
黒人アーティストで、社会的メッセージ・ソングを次々とヒットチャートの上位に送り込んだ先駆的存在といえば、シカゴの名ヴォーカル・グループ、カーティス・メイフィールド率いるジ・インプレッションズ。
ゴスペルに強い起源を置く彼らは、辛い日常の嘆きを徐々に社会の不公正に目を向けさせ、さらにそれを黒人の誇りとして歌うようになるが、その先駆けとも言えるのが今作で、収録の「アーメン」は名優シドニー・ポワチエが黒人初のアカデミー賞主演男優賞を受賞した映画『野のユリ』の主題歌としても有名だ。
カーティスは’70年代にもサイケデリックなギタープレイと魅惑なストリングス・アレンジと共にソウル・ミュージックを開拓し、黒人社会の現実と誇りを訴え続けていった。
人種、性別、階級……怒りと誇りが融合した時代
公民権施行を予言するような曲も
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