ジャニーズ事務所社屋 AFP=時事
日本を代表するアイドル事務所こと、ジャニーズ事務所。オーナーだったジャニー喜多川氏は2019年7月9日(87歳)に、都内の病院にてくも膜下が原因で逝去した。日本の老若男女を悲しみの一色で塗り染めた瞬間だった。
そんな中、ジャニー喜多川氏の財産額の話が聞こえてきた。「ジャニーさんは、100億の財産を持っていた」「違う、300億だ」と。諸説飛び交っていたが、仮に300億円だった場合、相続税額は197億円。相続税の申告期限(相続開始から10か月)までに、原則として現金で一括納付しなければならない。相続人の相続税の納付はどうなるのかが気になるところだ。
辻・本郷税理士法人の相続部にて、税理士として活躍中の井口麻里子さんにお話を伺った。
姪のジュリーさんが直接相続すれば56億円の節税だが……
井口麻里子さん(税理士、1級ファイナンシャル・プランニング技能士)
「ジャニーさんが節税対策を検討していたとしたら、遺言を書いて、姪のジュリーさんに大半の財産を渡すよう手配していたと思います。というのも、ジャニーさんの姉であるメリーさんが相続してから、メリーさんの娘のジュリーさんが相続すると、56億円の損失になるからです。普通は対策をするはず……」
56億円の損失? これには相続税の次のような仕組みが関係している。
遺言がない場合、相続が発生した際に誰が財産を相続できるかは民法で決まっている。財産を相続できる人を、「法定相続人」という。亡くなった人の配偶者(妻、夫)は必ず法定相続人となる。これ以外の相続人は、次の順番で決まる。
第一位:子ども(子どもがすでに死亡している場合は孫、ひ孫などの直系卑属)
第二位:父母(父母がすでに死亡している場合は、祖父母などの直系尊属)
第三位:兄弟姉妹(兄弟姉妹が既に死亡している場合は、その子ども)
ジャニーさんは3人兄弟の末っ子として、1931年の10月23日に生まれた。ジャニーさんは一度も結婚しておらず、今のところ隠し子は出てきていない。両親や兄は既に他界している。
ジャニーさんが遺言を残しておらず、兄に子供がいないとすると、法定相続人の順位によって財産を受け継ぐことになるのは、自動的に姉であるメリーさんになる。この時、メリーさんが負担する相続税は、197億円。亡くなった人の配偶者と一親等内血族(養親・養子を含む親または子)以外の人が財産を取得する場合、
相続税が2割増しになる「2割加算」という制度があるため、負担がより一層重くなるのだ。
メリー氏は、1926年12月26日生まれで現在92歳。ジャニーさんの唯一の相続人であるメリーさんには、娘が1人いる。ジュリー喜多川副社長だ。 ジャニーさんの財産はメリーさんに渡り、いずれジュリーさんに渡る。
メリーさんは高齢のため、そう遠くない将来相続が発生するのは必然だ。勿論、その時にも相続税は発生する。メリーさんの財産を、単純にジャニーさんから受け継いだ103億円(300億円-相続税197億円)だけだと仮定すると、ジュリーさんはこのとき56億円の相続税を負担することになる。せっかくの300億円も、たちまち47億円(300億円-相続税197億円-相続税56億円)になってしまうのだ。(メリーさんがジャニーさんに相次いで亡くなった場合には、一定の軽減制度あり)
ジャニーさんが、「全財産をジュリーに」と遺言を書いていたとすれば、メリーさんの相続時に払う56億円をそっくり省いて、(300億円−197億円=)103億円がジュリーさんの手許に残る。ジュリーさんが全財産を取得した場合も、メリーさんと同じく相続税が2割増しになるため、払う相続税はメリーさんと同じ197億円。メリーさんを飛ばすことで、その197億円一回きりで済むのだ。
税理士の井口さんは話す。
「ジャニーズ帝国と言われるほど、大きな芸能事務所を築いた人。この仕組みについてもアドバイスしてくれる人はいたと思うし、急死ではなかったのだから、相続税の節税に対する準備もできたはず。もし遺言を書いていないとしたら、自ら税金を納める道を選んだとしか思えない」