時を隔てて2011年、福島核災害により全原子力発電所は順次停止となり、一挙に大量のバックフィットのための工事を行うこととなりました。これは80年代以降運開の改良標準化炉(PWRの場合は、川内1,2、玄海3,4、伊方3、高浜3,4、大飯3,4、敦賀2、泊1,2,3)を除く原子炉では工事量=費用が著しく増加することを意味します。
高浜発電所では、3,4号炉の操業再開は、司法リスクの顕在化などで停止期間が生じましたが、BWR陣営や、古いPWRに比べれば圧倒的に円滑であったと言えます。
ここで航空写真は2013年7月20日となります。原子炉は全炉停止中で、写真の時点では、取水路を除き大きな工事は行われていません。また、外部電源は500kV二系統四回線、77kV一系統一回線となっており、最低限の冗長性があります。
この写真の時点で、1号炉は残り1年強、2号炉は残り2年強の残余寿命しか残しておらず、延命に向けてのバックフィット工事の膨大さから費用と工期を考えればこのまま廃炉が妥当でした。
一方で3,4号炉は、残余寿命がまだ十分にあり且つ、炉の設計・施工も優れている為に特重を除けば大規模な工事を必要としていません。
Google Map衛星写真が2018年後半から2019年3月頃の撮影と思われますが、
本シリーズ第一回でご紹介しましたとおり、高浜発電所では、経営陣の正気を疑うようなたいへんに大規模な工事が行われています。1,2号炉延命工事、バックフィット工事に加えて特定重大事故等対処施設(特重)工事が行われており、その工事量は膨大です。結果として工事は遅延し、電力業界と財界による圧力を原子力規制委員会が当然拒否した事もあって、3,4号炉は来春から少なくとも1年、工事遅延の度合いによっては数年間の停止となることは必至で、1,2号炉の操業開始も大幅に遅れます。これは明らかに戦力分散・戦力逐次投入の愚の結果であって、関電経営陣の初歩的且つ致命的な判断ミスです。
2018年後半から2019年3月にかけての撮影
操業再開へ向けた工事が大規模に行われているが、とくに1,2号炉周辺での工事が大規模である。4号炉裏側で特重工事が行われている。
Googleでは、送電鉄塔を消す検閲は行われていない
Google Map衛星写真より
また最後のGoogleによる衛星写真に赤い橋が見えますが、これは原子力発電施設等立地地域特別交付金事業 一般県道 音海中津海線(大飯郡高浜町音海~小黒飯)によるもので、約55億円の国費・県費が投じられています*。
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原子力発電施設等立地地域特別交付金事業 一般県道 音海中津海線(大飯郡高浜町音海~小黒飯) 2018/02/09 福井県>
勿論、地方の生活道路改修は大切なことですが、これも原子力の費用です。
ここまでで、まず「関電被害者論」のデマゴギーの一つである「高浜発電所は集落を立ち退かせた」は完全に否定されました。
同時に高浜発電所近傍の歴史を俯瞰することによって、その栄光と急速な衰亡が明らかとなりました。このままですと、1,2号炉に引きずられる形で3,4号炉の運転実績も大幅に劣化するでしょう。
こうなることは、当初から自明であって関電経営陣がなぜこのような判断ミスをしたのか不思議でなりません。狂った経営判断には、狂った事情があったとしか考えられません。
そこへ浮上したのが長年の宿痾としての関電巨額資金還流事件です。この膿は完全に出し切ってしまわなければ関電にも日本の原子力産業にも将来は無いでしょう。
次回は、音海半島、高浜町全体を俯瞰しながら、もう一つのデマゴギーについてその虚構を露わにします。
◆『コロラド博士の「私はこの分野は専門外なのですが」』~緊急特集・関西電力資金還流問題編3
<取材・文/牧田寛>
Twitter ID:
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まきた ひろし●著述家・工学博士。徳島大学助手を経て高知工科大学助教、元コロラド大学コロラドスプリングス校客員教授。勤務先大学との関係が著しく悪化し心身を痛めた後解雇。1年半の沈黙の後著述家として再起。本来の専門は、分子反応論、錯体化学、鉱物化学、ワイドギャップ半導体だが、原子力及び核、軍事については、独自に調査・取材を進めてきた。原発問題について、そして2020年4月からは新型コロナウィルス・パンデミックについての
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