オーガズムの基本的な身体要因とは、
女性は膣内、男性は前立腺あたりの筋肉の外圧的圧縮の連動によるもので、それと同時に
心拍数・血圧が高まることが医学的な見解である。
イギリス、シェフィールド大学のロイ・ジェローム・ラヴィン氏の前立腺によるオーガズムの研究 (2017年) によると、勃起から射精のプロセスは、精巣から精管を通って尿道に精子が送られてから、体外に排出される。精子が尿道に送られるのは、
副交感神経の優位な時。もう一度言うが、リラックスした状態の時である。
その後射精となり、体外に排出されるときは臀部の筋肉運動によるもので、ここで交感神経が優位になり、
アドレナリンが脳内から分泌される。アドレナリンが過度に分泌されると、それを抑えようとして
プロラクチンという物質が分泌され、それがいわゆる賢者タイムの原因になる。
ゆえに、ここで「オーガズム」を感じるのは
射精排出時に前立腺が筋肉運動によって圧迫されるものが原因なので、実は射精とオーガズムは一緒のように見えて全く別の部分で起きている、ということである。
無論、排泄欲の解消という意味でアドレナリンが分泌されるが、それは本来のオーガズムとは全く比にならない。
ちなみに女性は
ペニスの挿入という外的圧力によって膣内の筋肉運動が促されオーガズムを感じるのである。これはあくまでも仮説の粋だが、女性がオーガズムを感じない、というのは心理的なもの(つまり
副交感神経が優位で無く膣内の粘膜が十分ではない)ということと、
身体的に挿入時に男性のピストン運動に依拠しすぎており、膣内の十分な筋肉運動が促進されていないことが原因なのではないだろうか。
前立腺が筋肉運動で圧迫されることで男性がオーガズムを感じるのならば、やはりオーガズムへの鍵は前立腺にある、と言えるだろう。
ベバリ・ウィップル、アリス・ラダス、ジョン・ペリー氏による「Gスポットと他、性における新発見(G-Spot and other recent discoveries about human sexuality 」(1982)による と、男女の体は相対的であり、平等にオーガズムを感じることができるとのこと。また、Gスポットが男性の前立腺と相対関係にあるとも説いている。ちなみに、この本は女性器内のGスポットを世に知らしめた名著とされている。
昨今、「メスイキ」や「ドライオーガズム」という名の下、前立腺開発が注目を浴び始め、アネロスやエネマグラといった前立腺マッサージ器具が男性用性具として売られている。
蛇足だが、もともとこれらの前立腺マッサージ器は前立腺諸症状を緩和する為に開発された医療用器具である。利用者から、オーガズムの誘発作用が報告され、性具として広く認知され利用されるようになった、とのこと。
前述したラヴィン氏の研究によると、アネロスを利用した63歳の被験者は性的幻想の有無(ポルノによる性欲の誘発)に関わらず、オーガズムを迎え無意識の内に全身の筋肉の縮小と震えを経験したとある。
この男性は2ヶ月のアネロス使用後、
アネロスによるオーガズムがとても依存度の高いものだと認識し、その使用をやめたとのこと。ちなみにこの被験者はアネロス使用時にうつ伏せになってコンドームを着用していたが、現在はアネロスを使わずにうつ伏せでコンドームを着用しただけでオーガズムを迎えることができるとのこと。
ラヴィン氏も今後の課題として記しているが、オーガズムと脳の関係性は未だ解明されていない。ラヴィン氏の被験者の男性が性欲の誘発の有無に関わらずオーガズムを迎えることができたのはとても興味深い。
オランダ、グローニンゲン大学の脳科学者、ガート・ホルステージ氏の研究(2005)では、オーガズム時は男女問わず、
脳内の行動調節・不安・恐怖心と結びついている脳の領域が停止する、とのこと。無論、男性のオーガズム(ここでは一般的な射精)が一時的なものに対し、女性の方がその領域は広く長時間にわたる。
これは仮説だが、性行為の準備段階に副交感神経が優位でリラックスしていなければならないのであれば、不安や恐怖心を取り除いたところに、オーガズムのきっかけがあると考えられる。
AV監督の代々木忠氏はその著書
「プラトニック・アニマル」(幻冬社 1999年)の中で本当のセックス はエゴを捨てたところにある、と記している。もしかしたらここに社会的な難しさがあるのではないのだろうか。