前回紹介したとおり、モラ夫たちは、不貞の初期段階は、妻に優しくなる。モラが緩和し、家事、育児を分担したりする。ただし、これは、不貞の邪魔をされないように妻の機嫌を取るだけであり、決して、罪悪感からではない。そもそも、罪悪感が本物であれば、不貞などしない。さらに根本的には、モラ夫にはならない。
また、モラ夫が妻の機嫌の取り方を知っていることにも注意喚起したい。
モラ夫は、普段の自らのモラや、家事育児の一方的放棄(夫にも家事育児の責任は当然ある)が妻を苦しめ追い詰めていることをしっかり認識しているのだ。
妻は、夫の態度の変化に嬉しくなって、不審な点を見て見ない振りをする。却って、「残業」や「休日出勤」に勤しむ夫に感謝したりする。まさに、モラ夫の思惑どおりに進む。
不貞が初期段階で終われば、夫婦の危機は発生しない。ただし、不貞が終われば、遅かれ早かれ、夫は、本来の不機嫌なモラ夫に戻ってしまう。
モラ夫は、不貞相手には妻とセックスレスであると嘘をつく
不貞が深まると、モラ夫は、不貞相手に対し、至らない妻と結婚した自らの不幸を嘆く。妻とはセックスレスであると説明する(これは、多くの場合、嘘である)。そして、不貞相手と結婚を語り始める。この時期は、「宿泊付き出張」が始まる時期でもある。
モラ夫が不貞相手との結婚を考え始めると、妻は邪魔な存在である。妻に対する敵意が生じることもある。「休日出勤」や「宿泊付き出張」などの不審な点を妻が問い質そうものなら、モラ夫は、これを抑え込もうと「俺を疑うのか」「証拠あんのか」「そんなに疑うお前に愛想が尽きた」などと反撃する。妻に対する敵意が爆発して、DVに発展する事例もある。
冒頭の事例では、勤務先近くに部屋を借りる数か月前頃から、妻への「連絡を忘れる」ほど、夫の「仕事が忙しくなった」。そして、「仕事が余りに忙しく」、深夜、午前様までの残業や、朝帰り、無断外泊を余儀なくされという。夫が離婚理由として挙げた、部屋の片づけへの言及は、確かに2、3回あったが、執拗には言っていないし、言い争いにもなっていなかった。
そして、夫は、借りている部屋の場所も教えず、携帯への妻からの電話には出ない。そこで、妻が、会社に電話したところ、同僚の女性が電話に出て、彼は外出中であると言った。妻であることを述べたのに、しつこく用件を聞かれたと言う。
調停では、双方離婚に同意したが、慰謝料が争いとなった。彼が慰謝料を渋るので、私が、同僚女性との関係を疑っているので、慰謝料を拒否するなら、同僚女性に対する訴訟もあり得る旨伝えた途端、彼は、あっさり、慰謝料の支払いに同意した。
調停離婚が成立したので、私は、妻/依頼者に対して、「やっぱり、不貞していましたね」と述べた。妻は、厳しい表情になり、私に対して、「どこに(不貞の)証拠があるんですか!」と怒った。
つまり、人は、
「人に欺かれるのではない、自分で己を欺くのである」(ゲーテ)。
<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>