タイに渡った日本の機関車。あまりにも手探りな導入に日本人のおじさん2人が立ち上がる

DD51

足回りをメーターゲージに変更するために待機しているDD51。(画像提供:木村正人)

東南アジアで活躍する日本の中古列車

 衰退しつつあることが言われてはいるものの、日本の製造業はまだまだ世界に誇ることのできる産業で、中でも歴史と実績が長いジャンルのひとつに鉄道もある。主要都市を新幹線が結び、時速300キロ超で走ることがもはや当たり前にすら感じるが、海外に目を向ければ、そんなスピードで事故を起こさずに走ることはほぼ奇跡に近いレベルに思える国もある。  そのため、海外の鉄道関係者は日本の車両や技術に注目し、一目を置く。開発技術のない国は日本の車両を手に入れたいと願うところも少なくない。しかし、技術が高い分、車両価格が高くなるのも事実だ。予算の取れない国によっては新車購入をあきらめ、中古を狙う場合もある。特に東南アジア各国は中古車両を求めることが多いようだ。  観光で人気のタイも国有鉄道(タイ国鉄)が採用している車両の一部に日本の中古車両が導入されている。特に有名なのが寝台列車のブルートレインだ。中古がタイに納入され、バンコクと地方都市を結んでいる。  最近もまた、タイに日本の車両が輸出された。「DD51形ディーゼル機関車」と呼ばれる車両だ。

日本全国で活躍し退役したDD51、タイへ

 DD51は1962~1978年の間に649両が製造された。貨物だけでなく客車も牽引し、特にJR北海道では「北斗星」や「トワイライト・エクスプレス」、「カシオペア」といった寝台特急、あるいは夜行急行の先頭車両として鉄道ファンから多大な人気を得ていた。一般の人はあまり知らないが、2011年の東日本大震災の復興では、被災地へ石油を輸送するために全国からDD51が集められたという。
タイ国鉄南本線

横にあるタイ国鉄南本線を国鉄の車両が通過していく。(画像提供:木村正人)

 そんなDD51のうち退役した1137号、1142号の2両が2018年9月ごろにタイに到着した。太平洋戦争時に日本軍が敷設した、映画「戦場にかける橋」でも知られる泰緬鉄道の起点となるノンプラドゥック駅に置かれ、今後はタイ国鉄の複線化工事に活躍する見込みだ。  タイ国民は、日本ほど一般的に国鉄を利用しない。というのは、現状タイ国鉄が有する線路は単線が多く、運行本数や速度が制限されてしまうからだ。国鉄の総延長距離は4,044キロ(2018年時点*)。1894年3月に開業して以来、徐々に敷設距離は伸びてきたが、ある時期から総距離はあまり変わっていない。このうちの大半が単線で、複線化が完了しているのは250キロ、つまり敷設総距離の6%程度でしかない。
単線

戦場にかける橋のクウェー川鉄橋駅は本数が少ないので単線のままになっている。

 タイ国鉄は複線化計画を進めており、工事第1期と2期が完了する見込みの2022年には総距離4,832キロに対し複線化部分は65%超の3,157キロになる予定だ。その計画遂行の大きなカギになるのが、このDD51なのだ。 <*距離に関する情報はタイ国鉄冊子「Rodfai Samphan Vol4 2018」を参照>
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タイ鉄道複線化の鍵を握るDD51だったが……
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