高齢化社会が抱える「看取り難民」問題。このままでは「亡くなる場所」が不足する

看取り難民

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 人口の約3割を高齢者が占める日本。高齢化にともない、問題となっているのが「人生の終わりを迎える場所不足」だ。  多くの場合は病院で亡くなるが、このままでは病床が足りないことで死を迎える場に困る「看取り難民」のリスクが高まっている。  この現状を解決するため、2013年の開院以来、在宅医療と在宅での看取りに力を入れている医師がいる。東京都板橋区にある「やまと診療所」院長の安井佑氏だ。  安井氏は、「都市型在宅医療に異業種の若手が必要な理由」というテーマで9月上旬、イベントに登壇。在宅医療を取り巻く現状と、医師を支えるPA(Physician Assistant)の重要性について話した。

2035年には、約47万人の看取り難民が生じる

安井佑さん

 安井氏によれば、「最期を自宅で迎えたい」と思う人は約70%いるが、希望通り自宅で亡くなる人は10%にも満たない。  しかし、病床が不足していることに加え、少子高齢化による労働人口の減少によって医療従事者の確保が難しくなってきている。この状況では、増え続ける高齢者を受け入れられず、現在の医療体制の維持はできない。  中央社会保険医療協議会の試算によると、2035年には約47万人の「看取り難民」が生じるという。とりわけ、人口が密集する都市部では喫緊の課題として重くのしかかる。

余命1か月の女性「夫と過ごせて幸せ」

 やまと診療所の診療地域は、板橋区のほか、隣接する練馬区、北区などに及ぶ。新規患者数も看取り数も増え続けており、2017年は新規患者数550人、看取り数206人、2018年には新規患者数759人、看取り数279人だった。  プレスイベントでは、実際に在宅医療を受け、最期を迎えた患者の映像が流れた。重症患者の治療をする「急性期病院」から自宅へ戻った女性は、夫と2人で過ごせて「幸せです」と涙ながらに話していた。  当初は余命1か月と言われていたが、その後は夫と口喧嘩をするほどまでに回復。在宅医療を始めてから3か月半後、夫に看取られて息を引き取った。  病院では面会時間に制限があるほか、食事時間や就寝時間も決まっている。そのため、患者も家族も自由度が低い。対して在宅であれば住み慣れた環境で余生を過ごせる。  やまと診療所では、24時間365日の安心サポートや、地域にある介護施設と連携したチーム医療を実現している。人材が不足する中、質の高い医療を行うために不可欠なのが「在宅医療PA」の存在だ。
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3分の2が異業種からの転身。医師の診療業務が40%→70%へ改善
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