トランプの要請で米国産とうもろこし275万トンを引き受けた安倍首相
去る8月25日深夜、G7首脳会合が行われたフランス、ビアリッツ発の共同通信配信で次のように初報が報じられました。
共同通信報より2019/08/25 23:16(JST)
”安倍晋三首相は、トランプ米大統領の要請を受け、米国産トウモロコシを購入する意向を示した。米農家は対中貿易摩擦が直撃し、中国への輸出が伸び悩んでいる。”(参照:
首相、米国産トウモロコシ購入を表明2019/08/25 共同通信 )
明けて8/26から続報が入り、詳細が明らかとなりました。
1.緊急輸入品 デントコーン
2.輸入数量 275万トン
3.輸入主体 民間穀物会社
4.緊急輸入の理由 日本における害虫(ツマジロクサヨトウ)被害のため
5.政府の関与 政府は、必要ならば倉庫保管料などを助成する*
<*
“米国産トウモロコシ 275万tの保管料を支援-吉川農相2019/09/03農業協同組合新聞>
まず国内で大きな虫害が発生し、トウモロコシなどの穀類に大被害が出ることで必要量の確保ができない場合、緊急輸入が可能であるのならばたいへんにありがたいことです。何しろ穀物は突発的な需要に対して対応できる余力が国際市場にそれほどありません。
近年では、各国で穀物備蓄を行っており、日本も例外ではありません*。そうであっても、300万トン近い突発的需要に即応できるのならばこんなにありがたいことはありません。
<*日本は、政府60万トン、民間65万トンで合計125万トンのトウモロコシとコウリャンの備蓄を行い、最大二ヶ月の供給が出来るようにしている。 参照:
農林水産省 5 我が国の農産物備蓄の概要(平成27年度) >
しかし、この時点で
おかしな事がいくつも出てきました。
第一に、
輸入デントコーンは乾燥子実であって、これは事実上国内生産していません。何しろウルグァイラウンド対策以降、トウモロコシは事実上の無関税ですので、約50%または12円/kgのたかい方という高率の関税税率が免除されています。従って国産は到底価格競争できないのです。従って、国内でトウモロコシが不作であってもそれは子実トウモロコシでは無いために、輸入デントコーンで代替することが出来ません。例えば今回、害虫被害が問題となっている国内生産トウモロコシの大部分は全草サイレージ向けで、これは
輸入デントコーンでは代替できないものなのです。なお、桁が一桁減りますが、国内生産されているトウモロコシには、野菜に分類されるスイートコーンがありますが、これは種も商品形状も異なり、輸入デントコーンでは絶対に代替できません。
トウモロコシ子実(写真はデントコーン)
これが緊急輸入されるトウモロコシである。
家畜を太らせるためのカロリー供給に特化し、濃厚飼料などの原料となっている。これだけでは家畜は栄養不良で死んでしまう。他に食用澱粉(コーンスターチ)や果糖異性化糖の原料となる
(photo by ShutterStock)
食用トウモロコシ
未成熟トウモロコシと呼び、国内では野菜として分類されている。
デントコーンと異なり、未成熟状態で早期収穫される。スイートコーンがよく知られる。甘味が強く食味に優れる。焼きトウモロコシやスープとして食べているものである。概ね7月からお盆前が収穫期のピークなので問題となった虫害をあまり受けていない
photo by grace / PIXTA(ピクスタ)
第二に
275万トンという数字ですが、これは
輸入量のほぼ1/4で三ヶ月分の輸入量に相当します。そして
国内生産量はデントコーンが統計外の自家消費用で500万トン前後です。但し、国内生産デントコーンは、全草サイレージといって、地上の植物体すべてを収穫してサイレージとするものであって、質量に占める子実の割合は精々二割程度です。従って、
国内生産のデントコーンが壊滅したとしても不足するトウモロコシ子実は100万トン前後となります。実際には、生産量の半数前後は後述する虫害地域ではない北海道での生産量ですので、仮に西日本全域でトウモロコシが壊滅したとしても不足するトウモロコシ子実は、最大限見積もって30万トン程度です。従って緊急輸入量が10倍近く過大に過ぎます。要するに、
数字が全く合いません。