モラ夫は、妻が言い返すと、「アルジ(主)への反抗」と激怒し、「出てけ」「離婚するぞ」と怒鳴る。しかし、多くの場合、これは単なる脅しである。モラ夫は、脅せば、妻が折れて、謝罪すると踏んでいる。別居、離婚を決断できない、逃げ出せるはずがないとタカをくくっているのだ。
しかし、モラ夫が「出てけ」「離婚するぞ」と脅しをかけ続けていると、ある日、妻は、決断する。
私は、日々、決断した妻たちの法律相談を担当している。妻は、「夫から離婚すると言われ、追い出されました」と説明する。私が、「モラ度の高い夫は、離婚に反対するので、調停は覚悟して下さいね」と説明すると、殆どの妻が「主人は離婚を希望しているので、離婚自体は問題ありません」と断言する。しかし、実際には、モラ夫は、容易には離婚に同意しない。
モラ夫は、離婚調停、裁判へ進むと醜態をさらす。典型的な例を紹介しておこう。
1、出てけと怒鳴ったのに、「勝手に出てった」と主張する。
LINE履歴が残っていて否定できなくなると、真意ではなかったなどと見苦しい。妻が子どもを連れて出ると、「連れ去り」などと吠える。家事育児のできないモラ夫の元に子どもを残せるはずもないが、俺はイクメンだったなどと言い張ったりする。
2、日頃、妻をディスっていながら、「夫婦仲良かった」と言い出す。
では、なぜ出て行ったのか、モラ夫は合理的な説明ができないので、弁護士が焚きつけた、引き離しビジネスだなどと噴飯ものの物語を語り始める。妻が精神的に異常だから出て行ったとして精神科医の診断書を要求するモラ夫もいる。
3、別居離婚にまで追い詰められた妻の気持ちに気付かない程の鈍感であるのに、「俺は妻思い」「妻に尽くした」などと言う。
被害妻側が調停室に入ると、「彼、妻に尽くした、妻思いだった」と言っていましたよと委員からの報告があり、妻が「エーッ!」と驚き、調停室が笑いに包まれることもある。モラ夫は、笑われていることを知らない。
4、子どもが心配と言いながら、養育費をケチりまくる。
子どもが心配と述べた同じ口が言っているのかと驚くほど、養育費を削ろうと涙ぐましい努力をする。妻側の生活費(法律上、「婚姻費用」という)や養育費を払いたくなくて、仕事を辞めてしまうモラ夫もいる。
5、生理的に無理、夫の顔を二度と見たくないと妻に言われても、「やり直せる」などと言い募る。
モラ夫にとって、妻は我慢すればよく、その気持ちはどうでもいいのだろう。
6、調停や裁判で、妻に対する罵詈雑言の書面(私は、「モラ書面」と呼んでいる)を提出しながら、夫婦円満調停を申し立てたり、離婚に反対したりする。
どうもモラ夫は、この矛盾に気付かないようなのだ。モラ夫にとって、モラ書面は、夫婦生活におけるモラの延長であり、感覚がマヒしているのだろう。
7、争って、離婚が成立した妻をディナーやデートに誘ったり、用事を言いつけたりする。
離婚して、元夫・元妻になってもまだ、支配従属関係の終了が理解できないモラ夫もいる。
冒頭の、「アイツと話しをさせろ」と述べた夫も、おそらくモラ夫だろう。そして、離婚に反対し、調停になって、他のモラ夫同様、醜態をさらすのだろう。
ところで、私は、弁護士になるまでは、「男は理性的」「男は度胸」「男には決断力がある」と何の根拠もなく信じてきた。しかし、離婚弁護士として、多くのモラ夫たちを観察し、これが誤りであることを痛感している。モラ夫は感情的で、めそめそしており、決断力がなく、優柔不断である。モラ夫たちは、今日も家裁で醜態を晒している。
<文/大貫憲介 漫画/榎本まみ>