凄腕万引きGメンが語る、万引き犯検知AIの有用性とその欠点とは?

スーパーの店内イメージ

蕎麦喰亭 / PIXTA(ピクスタ)

 みなさん、こんにちは。微表情研究家の清水建二です。前回前々回とお送りしてきました微表情の実務世界―万引きGメン編は今回で最終回となります。シリーズ最終回のトピックは、万引き犯をめぐるAIと人間の関わりについてです。

 現役私服保安員が思う、万引き犯検知AIの長所と短所

 現在、防犯カメラを通じて不審行動を計測するAIが万引き犯を検知したり、万引き常習犯の顔を顔認証カメラが認識し、万引き犯来店時に店の責任者に知らせるなどの技術がすでに一部の店舗では実施されています。これまで自身の目と手で万引き犯の動きを察知し、捕まえてきた、R・T(私服保安員歴10年・30代・男性)さんにこうしたAI技術について伺いました。 「万引き犯検知AIは検知率が高いため、万引きの解決につながっています。保安員の人件費は安くなく、また経験ある保安員と言えども人間なので、ずっと監視していると集中力が落ちます。機械ならコンスタントにモニタリング出来ます。ですので、AIの進展は大いに期待できます」  このようにAIに期待が持てる一方で、次のような弱点を指摘されます。 「ある万引き犯検知AIの話ですが、そのAIは万引き犯が商品をバックなどに入れる瞬間に万引きを現在実行している可能性を見積もり、それを知らせてくれます。しかし、その前の段階、店内をうろうろしている段階や商品を手にしている段階ではそれを見積もってくれません。私たち保安員なら表情や身体の動き、商品の持ち方などで万引きをしようとしてるかどうかわかることがあります。犯行の瞬間に防犯カメラからフェイドアウトしてしまうと意味がないので、商品をバックに入れるある程度前の段階で怪しい行動を検知してほしいと思います」

顔認証システムの欠点とシステムへの期待

 次に顔認証システムについて伺いました。R・Tさんによると、次のような運用がなされているとのことです。 「顔認証システムに万引き常習犯の顔を登録しておきます。常習犯が入店したら、顔認証システム搭載のカメラがその人物を認識し、店舗責任者に通知が行きます。通常、万引き常習者を見つけるには、店の出入り口での張り込みや、店内の巡回でしかわからないのですが、こうしたカメラのおかげで瞬時にわかるため一定の期待を寄せています」  しかし、R・Tさんは2つの改善点を挙げます。 「一つに、認識システムそのものに誤作動があるため、認識の精度を上げる必要があります。二つに、保安員がいるときは私たち保安員が警戒にあたれますが、私たちがいないときは店舗責任者が警戒にあたる必要があります。しかし、万引き常習犯が入店したことを知らせるアラートが鳴ったとしても、通常のお客さん対応に忙しく、警戒まで手が回らないのです。実際、以上2つのことは現在運用中の防犯ゲートで起きています。防犯ゲートのアラートが鳴れば、レジを通っていない商品をお客様が持っているかどうか確認します。アラートの誤作動があったり、忙しくてアラートに対応できないことがあり、防犯ゲートの電源自体を切ってしまう店舗もあります。顔認証システムも同じになってしまうのではないかという危惧があります」  そこで現状は顔認証システムを用いた万引き犯検知は、保安員が十分に確保されている、あるいは店舗責任者など利用者が迅速な行動を取ることが出来る、こうした条件が満たされれば有効活用できるのではないかとR・Tさんは述べます。
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AIと人との役割分担を明確に
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