凄腕万引きGメンが語る、万引き犯検知AIの有用性とその欠点とは?

AIと人との役割分担を明確に

 また、R・Tさんは人間の対応法についても工夫やトレーニングが必要だとも言います。 「万引き犯検知AIにせよ、顔認証システムにせよ、アラートに対応するのは人間です。アラートがなったとき、どんな声掛けがトラブルにならないか、誤アラートに対してどんな対応をしていくか、AI技術の進歩とともに私たちの対応も変化させていく必要があります」  ここで私の質問「将来AIが万引き犯を100%検知できるようになれば誤認逮捕はなくなると思いますか。」に対し、R・Tさんは次のように回答します。
R・Tさん

私服保安員歴10年のR・Tさん。鋭敏な観察力と温和な態度で万引き犯を諭す。

「100%検知できるようになればお店側が(万引き)防止の為に使用する場合に限り、誤認逮捕はなくなることはもちろん、今まで振り回されてきた万引き犯人ではない紛らわしい行動をするだけの不審者を除外し、的確に被疑者をピックアップできます。したがって、必要最低限の時間での対応が(万引きに対して)可能となり、その点において対策にかけるお店側の負担は減ると考えます」

万引き犯への人間的な対応可能になる

 私はこの話を伺っていて、私服保安員の仕事内容についても大きな変化が起きるのではと思いました。  例えば、万引き監視の負担が減少する分、捕まえた後の対応やケアに時間を割くことが可能になるでしょう。これはまさに最初の回で紹介したR・Tさんがモットーにしている説諭、つまり、なぜ万引きをしてしまうのかその背景を考えたり、万引き犯の気持ちを受け止めながら諭していく、少しでもその人の未来がよくなるようにと思いながら対話する、そんなことがこれからの私服保安員の方々により求められてくるのではないかと思いました。  今回で微表情の実務世界―万引きGメン編は終わりです。次回以降も、微表情を実務に活用されている様々な職業の方々の様子をレポートします。 <取材・文/清水建二>
株式会社空気を読むを科学する研究所代表取締役・防衛省講師。1982年、東京生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業後、東京大学大学院でメディア論やコミュニケーション論を学ぶ。学際情報学修士。日本国内にいる数少ない認定FACS(Facial Action Coding System:顔面動作符号化システム)コーダーの一人。微表情読解に関する各種資格も保持している。20歳のときに巻き込まれた狂言誘拐事件をきっかけにウソや人の心の中に関心を持つ。現在、公官庁や企業で研修やコンサルタント活動を精力的に行っている。また、ニュースやバラエティー番組で政治家や芸能人の心理分析をしたり、刑事ドラマ(「科捜研の女 シーズン16・19」)の監修をしたりと、メディア出演の実績も多数ある。著書に『ビジネスに効く 表情のつくり方』(イースト・プレス)、『「顔」と「しぐさ」で相手を見抜く』(フォレスト出版)、『0.2秒のホンネ 微表情を見抜く技術』(飛鳥新社)がある。
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