芸術を語れる政治家がいない日本は文化芸術立国になれるのか?

美術を語れる政治家の存在が不可欠

脇田玲さん

 大学教授でありながら、アーティストとしての側面を持つ脇田氏は次のように語った。 「美術や芸術家出身の政治家がいないので、文化芸術を語れる人がいないのでは。陸奥宗光(むつむねみつ)が語った『政治はアートなり、サイエンスにあらず』のような考えを持つ人が政治家になれば面白いと思う」  文化芸術立国に向けた具体的なロードマップを策定できる政治家がいないため、文化芸術の振興目的で行う美術館の建設やアートフェスティバルなども、形式的になってしまっているのかもしれない。  昨年、次世代の美術館のあり方を示した「リーディングミュージアム構想」が政府案として出され、アート市場活性化に向けた動きも出てきてはいる。  しかし、過去に国立メディア芸術総合センター建設に当たって、見切り発車が原因で頓挫したように、美術や芸術に精通した人の意見を元に政策を進めなければ、かつての二の舞になってしまうのではないだろうか。

IRをうまく活用すれば文化芸術立国への足ががりになる?

岩渕貞哉さん

 岩渕氏は、『美術手帖』の編集長として長年アートシーンに携わる中で、アジアのアート市場について説明した。 「中国は国家戦略として、芸術特区を作りアートコレクターやアーティストが集まる土壌づくりを行なっている。また香港は、アートバーゼル香港といった世界規模の見本市を開催しており、世界中のアートコレクターや美術関係者から注目され、アジアの現代アート市場を牽引している」  国に強力なバックアップを得ている中国や、アートシーンが根付いている香港は、文化芸術立国を目指す上で参考になるだろう。世界に比べ、アート市場規模が小さい日本。何か打開策や今後の展望はあるのだろうか。 「香港のデモが続けば、アートコレクターや美術関係者の足は遠のき、香港のアートシーンは先行き不透明になるだろう。また、中国も独自の文化があり、グローバルなアートビジネスは展開しづらく市場の伸びしろは限界があると思う。こうした背景から、次のアジアのアート市場を作る国として日本が手を挙げるチャンス」(岩渕氏)  岩渕氏が注目するのが、港を中心とした貿易都市として発展してきた横浜だ。今年8月にはIR誘致を発表し話題を集めたが、横浜カジノ構想が実現すれば世界規模のアートフェアの開催も十分可能性があるという。  シンガポールはIRをうまく取り入れて成功した国の1つに挙げられる。シンガポールを象徴するホテルのマリーナベイサンズは、カジノがあることで知られているが、アートフェアも開催されているのだ。カジノに集まる富裕層をターゲットにしたアート市場が形成されており、横浜もこれに続くことができれば文化芸術立国の第一歩が踏み出せるかもしれない。 <取材・文/古田島大介>
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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