問題となった「憲法の橋」。photo by Irén Nemess via Pixabay
現在、スペインを代表する建築家のひとりに
サンティアゴ・カラトラバ(Santiago Calatrava)がいる。筆者が住んでいるバレンシア出身で、1990年代から2000年代にかけて
ガウディーの再来かと注目を集めた建築家であった。しかし、今では彼が設計した建造物は当初の予算を大幅に上回り、完成した作品の多くが常に問題を提起するという波紋を呼ぶ建築家に変身している。
嘗て世界から引く手あまたの建築家であったのが、今では良く批判される建築家となっている。なぜ? そこには彼の尊大さが影響しているのかもしれない。
彼のことについて研究したジャーナリストのリャツェル・モイシュは、カラトラバがカタルーニャ大学の上級建築学校校長アルベルト・エステベスとカナリア諸島テネリフェのエンジニアであるエンリケ・アミゴーに答えた会話の内容を明らかにしている。その中に彼の尊大さを垣間見ることができる。
エステベスがカラトラバに、前者が運営する上級建築学校で講義をしてもらいたいと依頼したことに対して、カラトラバは「
私が君に私の設計事務所を清掃しに来てもらいたいと提案すれば、どう思う?」と尋ねたそうだ。世界的名声のある建築家に建築学校での講義を依頼するのは品格を落とすようなものだと言いたいようであった。
また、アミゴーがカラトラバにカナリア諸島テネリフェのコンサートホール「アウディトリオ・デ・テネリフェ」の建設プロジェクトにカラトラバにその指揮を依頼した時、カラトラバは「
一つ明白にしておきたい。君は私に島から依頼しているのだ。その島はヨーロッパのケツにある。私はヨーロッパの中心のチューリッヒから話しているのだ。君の島は私には価値はない」と見下すように答えたのであった。そう言っておきながら、この仕事をカラトラバは引き受けて、当初の予算の4倍の建設費用2億ユーロ(220億円)を発生させたという代物だ。一方、彼は1200万ユーロ(14億4000万円)をガッポリ稼いだのである。(参照:「
El Pais」)
「テネリフェのオペラハウス」とも言われる、アウディトリオ・デ・テネリフェ。Hans Braxmeier via Pixabay
そんなカラトラバがイタリアのベネチアで設計した鉄道駅とローマ広場を結ぶ「憲法の橋」と命名された長さ94メートル、幅5.58メートルから9.38メートルの橋の建設費が当初の見積もりを大幅に上回ったとして78000ユーロ(936万円)の罰金が科せられたことが先月報道されて話題になった。この建設に携わったエンジニアのサルバトッレ・ベントにも11000ユーロ(132万円)の罰金が科せられた。
完成したのは2008年であるが、当初見積もりされた費用は670万ユーロ(8億400万円)であったのが、最終的に1160万ユーロ(13億9200万円)の費用がかかったというのである。ほぼ500万ユーロ(6億円)の過剰費用がかかったことになる。(参照:「
ABC」)
この過剰費用を発生させたことでカラトラバは訴えられたが、2015年の会計検査院の一審では無罪とされた。ところが今回の二審では容疑は肉眼でも分かるほどの怠慢さであると判断され、しかも橋の建設について、それが長い年月に十分に裏付けされた経験を積んでいる世界的に著名な建設家による作品であるということはより重大で、尚更罰するに値するものだという判決がくだされたのである。