実際、「同性カップルの子育て」というのは、どういうものなのだろうか。「興味津々でよく聞かれるけれど、正直、特別な悩みなんてない。子育ての悩み、なんて、同性カップルも異性カップルも変わらないと思う」と小野氏は話す。みっつん氏も「本当にそう。トイレトレーニングどうしよう、とか、そういうことばっかりだよね」と同感のようだ。
カミングアウトについて話が及ぶと、日本とスウェーデンの違いが浮き彫りになる。小野氏が子育て真っ最中であった十数年前は、LGBTという言葉すら浸透していない時期だった。下の子が中学校に入学する際、スクールカウンセラーに初めてカミングアウトした時は、かなり驚かれたという。
一方、スウェーデンでは、カミングアウトの必要すらなかったようだ。「1歳半から幼稚園に通わせているけれど、入園する前に見学しに行った時も先生との面談の時も、パートナーと一緒だったけれど何一つそういったことは聞かれなかった。避けている、とかそういうことでもなくて、一切会話に上がってこなかっただけ」とみっつん氏は語る。国として、多様性に関するベースの違いを感じさせられるエピソードだ。
「同性カップルの子ども」としていじめの対象となるのでは、との質問に対しては、小野氏はこう答える。「いじめ自体が問題なのであって、同性カップルであることが問題なのではない。勿論子どものサポートはするけれど、『同性カップル=いじめ』という図式がおかしい。家族の問題ではなく、その外側の問題だと思う」。
みっつん氏は、いじめは予防することよりも起きた後の対応が重要だと話す。「スウェーデンでは、性教育が行き届いている。ゲイやレズビアンの子がいじめを受けるという話は聞くけれど、それでも教育がベースにあるからこそ、助ける側に回ってくれる子もいる。教育というのは、逃げ場を作るベースになっていると思う」。
日本とスウェーデンの違いだけを見つめ、日本は遅れている、スウェーデンは進んでいて良いなぁ、と思ってしまうだけでは、意味がないのだろう。国が違えば、ベースが異なってくる。そっくりそのまま真似をしても、日本では上手くいかない可能性だってある。「スウェーデンでも勿論大変なことはある。良いか悪いかの二元論で語るのは違う。議論する、ということが大事」とみっつん氏は語る。フラットに議論できる場が、今の日本では最も必要とされていることなのかもしれない。
<取材・文/汐凪ひかり>
早稲田大学卒業後、金融機関にて勤務。多様な働き方、現代社会の生きづらさ等のトピックを得意分野とし、執筆活動を行っている。