イトーヨーカドーのファミレス「ファミール」が全店閉店――跡地問題にも「地域格差」が

イトーヨーカドーに入っていた「ファミール」が全店舗閉店

 デパートやスーパーの最上階にあるレストラン。かつては「ハレの日の食事場所」として大きな人気を集めたものの、とくにスーパーではめっきり減ってしまい、そもそも地方ではそうした高層の店舗を見かけることさえも少なくなってしまった。  そうしたなか、イトーヨーカドーでもファミリーレストラン「ファミール」、そして別業態の「芝のらーめん屋さん」、「まん天丼」が9月30日までに全店舗閉店することが判明し、永年親しまれた思い出のレストランの閉店を惜しむ声が多く上がっている。
ファミールの店頭に掲げられた閉店告知(青森県弘前市)

ファミールの店頭に掲げられた閉店告知(青森県弘前市)

「ファミレスの先駆け的存在」だったファミール

 ファミールはイトーヨーカドーの外食部門「ヨークフードサービス」として1972年に設立され、千葉県松戸市のイトーヨーカドー五香店(「イトーヨーカドーザプライス五香店」現存するもののファミールは閉店)に1号店を出店。その後、1981年に社名を「ファミール」に改めた。この間には姉妹会社として1974年には米国大手のレストランチェーンからライセンスを取得したファミリーレストラン「デニーズジャパン」も設立されており、横浜市のイトーヨーカドー上大岡店(デニーズはイトーヨーカドー建て替えのため2017年に閉店)に1号店を出店している。  ファミールが創業した1972年には、ロードサイド型のファミリーレストランはまだ少なく、さらに店舗の多くはイトーヨーカドーの高層階に出店したため「街が一望できるレストラン」として人気を集め、多くの家族に親しまれることとなった。その後はイトーヨーカドー店外、そしてロードサイドへの出店も開始、バブル期には200店舗近くにまで店舗網を成長させた。また、ファミールが運営する別業態「芝のらーめん屋さん」もイトーヨーカドーの店舗網拡大とともに店舗を増やし、100店舗以上を構える規模に成長した。
9月30日に閉店する「ファミール弘前店」(青森県弘前市)

9月30日に閉店する「ファミール弘前店」(青森県弘前市)。
岩木山が見えるレストランとして親しまれたが「ファミール最後の店舗」の1つとなる

 しかし、時代の流れとともにより高級志向で洋食メニューが充実しているデニーズ業態が成長を遂げ、1990年代にはファミールのロードサイド店がデニーズへと転換。さらに、2007年には「ファミール」、「デニーズジャパン」、「ヨーク物産(フードコート「ポッポ」運営)」の3社が経営統合され、「セブン&アイ・フードシステムズ」の運営となった。この時点ではまだファミール・芝のらーめん屋さんともに100店舗ほどあったものの、近年は両店ともに閉店が相次いでいた。  こうした状況の原因には、同系列のデニーズを含めた大手ファミリーレストランチェーンの隆盛があることは言うまでもない。実際にファミールの店舗へ行ってみると、メニューでは知名度の差もあるのか「ファミールはデニーズのクオリティ」であることが頻繁にアピールされており、現在の両者の「力関係」が一目で分かる。  さらに、近年は単身世帯が増えており、こうした客にとっては例え外食するにしてもファーストフードやイートインなどのほうが気軽に利用できるということも大きな要因であろう。
デニーズの文字が目立つファミールのメニュー

現在のファミールのメニューには「デニーズ」の文字が目立つ

 8月現在、「ファミール」は福住店、函館店、青森店、弘前店、錦町店、尾張旭店の6店舗を、「芝のらーめん屋さん」は福住店、青森店、弘前店、尾張旭店の4店舗を、「まん天丼」は西新井店を残すのみとなっていたが、都商研の取材によると、いずれも9月30日までに閉店(まん天丼のみ9月16日、残る店舗は9月30日)する予定だという。現在残る全店舗はいずれもイトーヨーカドー店内への出店であった。
芝のラーメン屋さん

ファミールのとなりに出店することが多かった「芝のらーめん屋さん」も9月で見納めとなる(青森県弘前市)。
右側にあるのはファミール

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跡地には「サイゼリヤ」が積極的に出店していたが……
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