委託美容室が増える理由(2)――なぜ美容師は委託美容室で働くのか?
第1に、「業務委託は労働時間が自由でたくさん稼げる」というイメージが広がっている。業務委託は美容室と対等な契約であり労働時間や業務内容への美容室からの指揮命令が弱く、自由に働けると思われているのだ。しかし、美容師ユニオンに来る相談事例を見ていると決してそうは言えない。
例えばある美容師は、毎日のシフトが12時間で設定されており、これを週5~6日こなす。遅刻には罰金もあり労働時間は全く自由ではなかった。にもかかわらず月収は30万円ちょっとで、労働時間の長さを考えれば決して高くはない。むしろ低いだろう。
業務委託にも関わらず労働時間・業務内容の拘束性が非常に強いという事態は無論、「名ばかり事業主」ではないかとの疑いを生じさせる。「名ばかり事業主」とは、形式的には業務委託だが、実質的には労働契約のような拘束性の強い働かされ方をしている労働者のことを指す。実際、業務委託美容室の中にはこうした「名ばかり事業主」が多く含まれているだろう。
第2に、働いてみれば自由でも稼げるわけでもないが、それでも委託美容室を経験した美容師は、労働契約で働くよりも業務委託で働くほうがいいという。その理由は簡単。美容師の労働契約の内容が悪すぎるのだ。
例えば、平成29年の賃金構造基本統計調査では「理容師・美容師」の月額給与の平均は24万1000円であり、年間賞与を月額換算したものを加えても24万6000円だ。対して全労働者平均を見ると、年間賞与の月額換算分も加えて40万9000円となる。美容師・理容師の給与が全産業平均と比べて非常に低いことがわかるが、こうした給与水準を前提にすると業務委託の30万円ちょっとという月額報酬は高いのだ。
さらに、こうした低い給与水準にも関わらず、労働契約の場合には研修や後輩の教育・指導などを労働時間外に求められる。委託美容室で働いていた美容師も、12時間も働かされていたにもかかわらず、労働契約だとさらに労働時間が増えると話していた。こうした労働時間外の活動は給与が支払われないことが多く、その結果違法な未払い賃金が大量に発生している場合も多い。美容師ユニオンが過去に扱った事案では、1年間で約70万円の未払い賃金が発生していた事例もあった。
なぜ美容師は業務委託で働こうとするのか。それは、端的に言えば、労働契約下での労働が劣悪すぎるためだ。給与は低い、労働時間は長い、違法な未払い賃金が大量に存在する。こうした違法かつ劣悪な労働を前提にして初めて、それほど自由でも高収入でもない業務委託契約が「自由で稼げる」ものとして存在しうるのだ。
最近、様々なところで業務委託として働くことが声高に奨励されている。また起業しようという呼びかけも多い。すなわち「労働者をやめて自由になろう」という呼び掛けが様々になされているのだ。
しかし業務委託として、非労働者として生きていくこともそんなに簡単なものではない。実際、業務委託で働くことを望んでいる美容師に将来展望を聞くと、「美容師辞めて他業界でサラリーマンやってるかもしれないですね」と話していた。業務委託の美容師として働き続けられるだろうという安定的な将来展望があるわけではないのだ。
労働者からの脱出がことさらに主張されるという現在の事態は、端的に言えば、労働者でありながら普通に生きていくことの困難の現れである。美容室業界の状況はその縮図である。そしてこれは、労働者でありながら普通に生きていく条件の形成を最大の目的とする労働組合の弱さの現れでもある。労働組合で活動する者としての力不足を切に受け止めつつ、同時に労働組合への結集を呼びかけたいと思う。
1995年8月15日生まれ。2000年に結成された労働組合、首都圏青年ユニオンの事務局次長として労働問題に取り組んでいる。