「鳥の日常に入り込む」……自然写真家が語る「鳥」撮影の極意とは

鳥の世界には色々な楽しみ方がある

 学問として研究し、鳥の生態系の謎に迫るだけでなく鳥を飼って、その愛くるしい姿や美しさを鑑賞したり、野鳥を追いかけて、写真を撮ったり。  鳥から学ぶとはすなわち、鳥をよく観察することだ。さえずりや仕草、飛び方など鳥の行動を観察することで、思わぬ発見に繋がる。これこそが自然や、生き物から学ぶための基本なのではないだろうか。 「鳥の撮影や観察の仕方は全部独学で学んだ。鳥を捕まえるために、鳥の行動を先読みして罠を仕掛ける工夫をしていた。また、鳥の行動を観察するために、警戒されないよう物陰に隠れて鳥の様子を伺っていた。隠れて撮ることで、鳥の日常へ入り込むことができる」(嶋田氏)  こうして、嶋田流生き物観察術は育まれていき、「野生の瞬間を一枚の写真として切り取る」という、嶋田氏ならではの独自の作風が生まれたのだ。

鳥との間合いや駆け引きから学ぶ、知られざる生態系

 嶋田氏は今回の展覧会で、世界最古の熱帯雨林と呼ばれるパプアニューギニア島(以下ニューギニア)に生息する鳥の写真を展示している。  ニューギニアは、鳥の楽園と呼ぶにふさわしく様々な種類の鳥が生存しているが、中でも国旗に描かれている極楽鳥は華麗な姿が特徴の鳥だ。一方で、生物学的には謎に包まれている側面もあり、まだまだ極楽鳥の知らない世界を探るための研究が行われている。  鳥の研究は謎が解けたら、また次の疑問が出てくる。この繰り返しだと樋口氏は説明した。 「風鳥類をはじめとした極楽鳥の美しさはメスの審美眼によって、オスの美しさが選ばれてきた。しかし、科学の言葉だけで説明できる月並みのものではないし、人間が到底作り出すことができない美しさがある。だからこそ、研究者や写真家が鳥の生態系を紐解く必要がある」(樋口氏) 学問の知識だけの通り一遍のことでは、なかなかわからない生態系だからこそ、新しい傾向を探るのが研究者の役目だという。  ニューギニア現地に出向いて極楽鳥の写真を撮る嶋田氏は、安全性が担保されていないジャングルでの撮影に対する心構えを次のように語った。 「行くときは覚悟を決めていく。極楽鳥の日常を捉えるには、時に危険と隣り合わせの場所で撮影する。ジャングルでは何が起きるかわからない。突然大木が倒れることや、ちょっと体のバランスを崩せば崖から落ちることなどあらかじめ想定していなくてはいけない。また、山賊に襲われて命を落とす危険もある。それでも、鳥との間合いを取って駆け引きすることが、どんな境地に立たされようと、自分を奮い立たせる原動力になる」  嶋田氏はこれまで、カワセミやアカショウビンなど印象的で美しい鳥に出会ってきた。その度に敬愛の念を抱き、鳥への思い入れを一層強めていった。今回展示しているニューギニアの熱帯雨林で撮影した極楽鳥も、現地で撮影した様子や感情を写真に収めて表現しているという。  極楽鳥の色や模様は芸術性の極みと表現するに等しい。例えば、翼の美しさは光の角度によっても違ってくる。  鳥の一挙手一投足に着目し、自分の感じた印象を写真に重ねる。畏敬の存在として鳥を観察し、鳥の魅力をより引き立てるために、どうするかを考える。これこそが嶋田氏が生涯に渡って磨き続けた撮影の術なのだろう。  鳥に対する強い思い入れが、独自の世界観を生み出し、絶妙な鳥の生き様を表す写真へと繋がる。観察や予測を入念に行うことで、どんな写真が撮りたいかを構築していく過程は、写真家でなくても参考になる考え方だ。  1つの答えを追い求めるために作戦を立てたり、工夫を凝らしながら実際にアクションを起こす。もし失敗したら、何度も挑戦する。  困難にも屈しないような忍耐力が、どの分野においても突き抜けるために大事なのではないだろうか。
1986年生まれ。立教大卒。ビジネス、旅行、イベント、カルチャーなど興味関心の湧く分野を中心に執筆活動を行う。社会のA面B面、メジャーからアンダーまで足を運び、現場で知ることを大切にしている。
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