この「ストライキ」だが、実は労働争議として正式な手続きを踏んだ「ストライキ」ではないなどという批判も出ている。本当にそうなのだろうか?
大まかな流れとしては、東北自動車道上り線佐野SAの運営会社である「ケイセイフーズ」が資金難にまつわるトラブルに対応していた総務部長の加藤正樹氏が解雇されたことに複数の従業員が異を唱え、40~50人のスタッフが部長の不当解雇撤回を求めて出勤を取りやめたのだという。ただ、このときの名目が「おなかが痛いので休む」という理由だったというのだ。(参照:
東スポWeb)
また、SNSでは「組合がなかった」などの言説も散見した。
「正式な手順」によるストライキとはいかなるものなのか? 前出の松﨑弁護士はこう語る。
「基本的には、ストというものは、行き詰まった団体交渉を打開するための手段として労働組合が行う場合にのみ正当性を有します。そうでない場合は、威力業務妨害になる可能性もあります。そのため、原則としては、労働問題が起きた場合、組合が団体交渉をして、『譲歩しなければストするぞ』と予告してから、それでも会社が折れない場合にはじめてスト開始するのが正しい手順です。ただ、交渉の内容によっては予告なく、または、早いタイミングでのストもあり得ます。ニュース記事だけでは正確な評価はできませんが、今回は解雇の撤回を要求していたようです。これは緊急性がありそうですので、状況次第では予告なしのストが適法になる場合があると思います。会社が財務危機に直面している状況で部長が解雇されたという事実をある種の異常事態であったと考えれば、なおさら緊急性があったといえるかもしれません」
また、仮に組合がなかったとしても、「従業員(仲間)の「解雇」という最も労働者として重要な問題を発端に40人以上の労働者が一致して取った行動なので、憲法上の労働組合と認められる可能性はある」(松﨑弁護士)という。(※2019年8月22日追記)
果たして、組合はあったのか? 事前通告はあったのか?これらの点について、ことの発端となった「解雇」の対象者である加藤正樹氏に話を聞いてみた。
「労組は今年1月に結成書を作成し、7月に第一回大会を行いました。もっとも、本を読みながら委員長が作った手作りの組合ですが。団体交渉自体は、元総支配人のパワハラについての抗議やエアコン設置などが要求です。
今回の”ストライキ”に関しては、東スポの報道の内容で間違っておりません。
ことがここに至るまでに、現社長についてのさまざまな問題があり、その途中に突発的に私が解雇されたため、従業員の大半は経緯を知っていたので、解雇が引き金となって”ストライキ”となったわけです。ただ、当初は、私の解雇撤回の要求はすぐのまれると思っていたようで、みんな2~3時間で終わるものだと思っていましたので、みんなすぐに現場に行ける準備もしていたそうです。翌日も翌々日も、みんなで集まって準備していました」
どうやら、今回の「ストライキ」自体は、解雇撤回という緊急性のある事態に、従業員が話し合いのなかで一致して取った行動であり、事前通告こそなかったものの、
労働法的にも「ストライキ」と言って良いものだと言えるようだ。(※2019年8月22日追記)
解雇された加藤正樹氏はFacebookに公開質問状をアップしている。(注:その後、
19日14:33付けで、”経営陣側から、公開質問状について回答したいので16時から会いたいという連絡がきました。しっかり質問に対しての回答を頂けることを期待します。”と投稿されている)
”【拡散希望】
<公開質問状>
佐野サービスエリア
株式会社ケイセイ・フーズ
代表取締役社長 岸敏夫様
代表取締役 岸京子様
監査役 横堀先生
まともに話ができるチャネルがないため、このようなかたちで、質問させて頂きます。
佐野SAの経営は危機的状況です。
メインバンク群馬銀行による新規融資凍結処分がかなりの痛手であると、私や取引先の皆様も考えています。
ケイセイフーズは銀行から片柳建設グループとみなされています。
メインバンクから、片柳建設グループ全体に対し、新規融資凍結処分が下されてそろそろ3ヵ月。
借金の返済の滞納も3ヵ月目。
この問題が解消しないかぎり、我々従業員だけが戻っても、問題は解決しない可能性がきわめて高いのです。
岸敏夫社長は、常々、自らのことを有能な経営者であるとおっしゃいます。経営危機の説明会のときですら、根拠を示さず「大丈夫です」と繰り返しました(取引先の多くが説明会翌日に、商品をすべて撤去したことを覚えていますか?)
あなたはこの現状を「大丈夫」と言いますが、「有能な経営者」なら、その根拠を教えて頂きたい。
逆に「事実無根」というなら、メインバンクの群馬銀行に、「ここ3ヵ月ぐらいの間、融資が凍結されていた事実はありません」というメッセージをもらってください。ウソ情報で大金を貸し付けている取引先がつぶれることは、群銀にとっても避けたいことでしょうから、事実無根なら、協力は貰えるはず。ぜひもらってください。
そして、佐野サービスエリア再生のための事業計画を立て、必要な新規融資を獲得してください。
経営者とは、そういう仕事です。
今まで、部下や業者に命令すれば、簡単に企画書や事業計画書ができあがるものだと思っていませんでしたか?
「俺は社長だ。命令するのが仕事だ。部下や業者がなんとかするものだ」
会社が危機的状況の中で、そんな考えは通用しません。
たとえ・・・・
たとえ、この大問題をクリアしたとしても・・・残念ながら、再開するためにクリアすべきハードル、特に信用を回復するためのハードルがいくつかあります。
だた、少なくともここをクリアしてもらえないと、今月中の経営破綻も視野に入ってくるので、従業員も取引先の皆様も、この点のクリアは必須と考えています。
岸敏夫社長。
あらためてお願いします。
危機である今こそ、あなたの経営者の資質をみせてください。
この大問題の解決案をじっくり検討し、メドを立ててから交渉に挑んでくださることを期待します。
あなたがたは夫婦でほぼ全株を握る筆頭株主です。
騒動が収束したら、私をクビにしても恨みません(もうそういう次元の話ではないので)。
私は私で従業員たちと一緒に、佐野SA再生のための事業計画を策定をはじめたいと思います。
その提案を、まずは世間の皆様にみてもらいたい(もちろんケイセイ経営陣にもみてもらいたい)。
できれば、佐野市長、石井国交大臣はじめ政治家の皆様、国交省、NEXCO東日本、ネクセリア東日本の皆様にもみてもらいたいです。
この公開質問状への回答、よろしくお願い申し上げます。
加藤正樹”
ただ、これもなぜ組合名義の声明でなかったのかは疑問が残るところだが、この点について加藤氏は「損害賠償等が発生した場合、私以外に行ってほしくない」ことや、「管理職なので、私が労組に入ると労組法上の労組ではなくなる恐れがあるため、私自身は組合員ではないから」といった理由を上げていた。