『天気の子』は、児童福祉の視点で見ると、さらにリアルで面白い!

判断も選択も法的に許されない子どもたちのジレンマ

 戸籍証明書も親権者の同意書もない帆高にとって、いくらスマホで求人情報を探しても、雇われるのは無理。  田舎なら地元の顔なじみとして漁師の仕事を手伝ってバイトできたかもしれないが、こうした「法外」の作法で乗り切る生存戦略は都会では基本的にありえない。  だから、マクドナルドでバイトしていた陽菜が、「17歳」と年齢詐称していたためにクビになったのも当然。おそらく陽菜は、年齢詐称をしてはバレて短期間に失職するという綱渡りのような経験をくり返してきたのだろう。(こういう少年少女は、現実の日本社会にも少なからず存在する)  ひとり親の母が死に、小学生の弟と二人だけの生活を守ろうとするなら、同じ職場では法定上、最大で週40時間しか働けず、深夜勤務もできないことから、学校に行くことはあきらめるしかない。  もちろん、児童相談所を経由して児童養護施設で生活する道もあるが、それしか選択肢がないと迫られることは、思春期の陽菜と凪の兄弟にとって、「おまえらは何もできない」と大人たちに強引に認めさせられるようで、何より悔しいことだろう。  他方、親権者がいない子どもを雇う側は、労基法違反のリスクを負う。

中年フリーライター、須賀が覚悟していた「リスク」

 帆高が出会った中年のフリーライター・須賀は、帆高が家出少年と知りつつ、自分の事務所に寝泊まりさせ、仕事を手伝わせる。月給は3000円だが、食事つきで無料宿泊できることは、10代で家出経験のある須賀にとっては必要十分な配慮だろう。  家出した未成年を親権者の許可なく泊まらせれば、誘拐罪で逮捕されるリスクがあることは、須賀自身が最初から覚悟していたことだからだ。(実際、未成年を家に泊めたことで警察に逮捕される事件は、ときどきニュースになる)  そんな須賀にも、喘息持ちの愛娘を義母にとられ、娘に会う権利を主張したくても、喫煙の過去だけで嫌がられる始末。そこで誘拐罪まで問われれば、家裁の心証が悪くなり、会うことさえ叶わなくなってしまうかもしれない。  だから、帆高が警察に追われていると知るや、「家に帰れよ」と言い出す。そして、そんな自分を嘲笑する。 「人間歳取るとさあ、大事なものの順番を、入れ替えられなくなるんだよね」  こうして家出少年の将来より娘との平穏な暮らしを選んだ須賀だが、彼も帆高や陽菜と同様に、社会のルール(法律)の前で不自由を強いられている一人であることを自覚し、悶々としている。
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銃を2度も発砲した帆高は、なぜ保護観察処分で済んだ?
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