『天気の子』は、児童福祉の視点で見ると、さらにリアルで面白い!

大ヒット中の『天気の子』。児童福祉視点で見てみると……

 興行通信社の発表によると、『君の名は。』の監督・新海誠さんの劇場用アニメ『天気の子』が、公開25日間で584万人を動員し、興行収入も78億円を突破するという。  この記事では、『天気の子』をまだ観てない方も、一度しか観てない方も、知っておくとさらに面白く観られる要素を、児童福祉の点から紹介してみたい。多少のネタバレを含むので未見の人はご注意いただきたい。

映画『天気の子』のポスター。筆者はTOHOシネマズいちはら他で2度見た。

 『天気の子』は、16歳の少年・帆高が離島から東京へ家出してきたところから物語が動きだす。彼が最初に寝場所にするのは、新宿のネット喫茶だ。  その受付で帆高は2度もどしゃぶりで濡れた姿をアピールし、「シャワールームまでの床を掃除させる面倒な客」として店員に印象づける。  そこまでやれば、店員は帆高が家出中の未成年であるかどうかという関心をすっ飛ばすかもしれない。

18歳未満は親の許可なしには働けず、宿泊もできない

 新海監督は小説版『天気の子』で「5日が経っていた」「ナイトパックが1泊二千円」と書いているが、現実のマンガ喫茶は18歳未満の客であることがバレれば、連泊どころか、1泊もできない場所だからだ。  モデルとなったインターネットカフェ「MANBOO!」の公式サイトには、「ご入店のお断りやご退店のお願いをさせていただく場合」として、「午後6時以降の16歳未満のお客様、午後10時以降の18歳未満のお客様」と明記してある。

「MANBOO!」の公式サイトより

 これは、東京都青少年の健全な育成に関する条例に従ったもの。  同条例には、「保護者の委託を受け、または同意を得た場合、その他正当な理由がある場合を除き、深夜(午後11時から翌日午前4時まで)に青少年(18歳未満の者)を連れ出し、同伴し、またはとどめてはならない」と書かれている。  それどころか、カラオケやインターネットカフェ、映画館などの「施設を経営する者及びその代理人、使用人その他の従業者は、深夜においては、当該施設に青少年を立ち入らせてはならない」とも書かれているのだ。  もちろん、子どもだけの深夜徘徊も認められず、大人には子どもを帰宅へ導く義務が課せられている。  つまり、18歳未満だと、まともな宿泊施設には泊まれない。だから、帆高と、彼と出会った少女・陽菜、その弟・凪の3人でホテルに泊まりたくても、どのホテルでも断られ、カネさえ払えば事情は聞かないラブホテルに泊まる以外に選択肢はなかった。  大人なら当たり前にできる行動も、18歳未満は保護者の許可がなければできない。  大人が一方的に決めたそんな社会のルールに対して、あまりに無知・無関心であるがゆえに無力な帆高は、アルバイトひとつありつけない。  労働基準法の第五十七条に、こうあるからだ。 「使用者は、満十八才に満たない者について、その年齢を証明する戸籍証明書を事業場に備え付けなければならない。使用者は、使用する児童については、修学に差し支えないことを証明する学校長の証明書及び親権者または後見人の同意書を事業場に備え付けなければならない」
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判断も選択も法的に許されない子どもたちのジレンマ
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