世襲のプリンス、小泉進次郎。(撮影/横田一)
8月初め、参院選後の短い臨時国会が終わると、
小泉進次郎衆議院議員に関する二つの出来事が、大きく報じられました。前者は社会的な話題となり、後者は政治ウオッチャーの話題となりました。
「自民党の小泉進次郎衆院議員(38)とアナウンサーの滝川クリステルさん(41)が7日、首相官邸で記者団に対し、結婚することを明らかにした。小泉氏らによると、滝川氏は妊娠しており、年明けにも出産する予定。安倍晋三首相や菅義偉官房長官とも面会し、結婚の報告をしたという」(出典:
『朝日新聞』2019年8月7日)
「菅官房長官が10日発売の月刊誌「文芸春秋」の誌上で自民党の小泉進次郎衆院議員と対談し、9月に予定される内閣改造で小泉氏が入閣候補者との考えを示したことがわかった。「ポスト安倍」の有資格者との認識も明らかにした」(出典:
『読売新聞』2019年8月8日)
首相官邸における異例の結婚発表、滝川さんの妊娠状況、雑誌記事の準備等を考えると、
将来の小泉進次郎政権に向けて、誰かによって周到に準備された政治的な動きと考えられます。小泉議員は、内閣の役職(大臣・副大臣・政務官等)に就いておらず、首相官邸で結婚発表をする必然性はまったくありません。
筆者の個人的な経験からしても、誰かの作為を感じます。筆者はかつて、小泉議員が内閣府政務官のとき公務視察に同行しましたが、人々の話をじっくり聴く姿勢を何度も見て、好印象を抱きました。その時の虚栄心のかけらもない姿からすれば、首相官邸で結婚発表する姿は、想像もできません。そのことも、誰かが彼の結婚を政治的に利用したように考える理由です。
その誰かとは、
菅義偉官房長官です。もちろん、安倍首相にも、政権に批判的な小泉議員を手なずけるメリットはありますが、既に政権基盤を安定させているため、どうしても手なずけたいというほどの必要性はありません。
菅官房長官にとっては、
自らが自民党総裁、そして首相を目指す上で、絶対的に欠落しているものがあり、小泉議員によってそれを補えるメリットがあります。ですから、菅官房長官は、小泉議員を絶対的に必要としているのです。
菅官房長官が絶対的に有していないものを探るには、自民党の歴代総裁を見る必要があります。過去30年(1990年以降)の歴代総裁は、以下のとおりです。
14代 海部俊樹
15代 宮沢喜一 宮沢裕衆院議員の子
16代 河野洋平 河野一郎衆院議員の子
17代 橋本龍太郎 橋本龍伍衆院議員の子
18代 小渕恵三 小渕光平衆院議員の子
19代 森喜朗
20代 小泉純一郎 小泉純也衆院議員の子
21代 安倍晋三 安倍晋太郎衆院議員の子、岸信介元首相の孫
22代 福田康夫 福田赳夫元首相の子
23代 麻生太郎 麻生太賀吉衆院議員の子、吉田茂元首相の孫
24代 谷垣禎一 谷垣専一衆院議員の子
25代 安倍晋三 安倍晋太郎衆院議員の子、岸信介元首相の孫(現総裁)
宮沢喜一総裁を最後に、
自民党総裁のほとんどが、衆院議員を父に持っていることが分かります。宮沢議員は、池田勇人元首相の大蔵次官時代から部下として支えた、戦後政治の第二世代です。それまでの自民党は、初代総裁の鳩山和夫議員を除けば、ほとんどがゼロから議員となった政治家ばかりです。佐藤栄作議員も、兄の岸信介議員よりも先に衆院議員となっていました。第一世代を支えた第二世代も鬼籍となり、安倍首相ら現在の政治家たちは第三世代といえます。
異彩を放つのは、森喜朗総裁です。父は、石川県内の村長ではありましたが、国会議員ではありませんでした。
森議員の特徴は、自民党派閥の清和政策研究会の番頭格だったことです。清和研は、福田赳夫議員に始まり、安倍晋太郎議員に引き継がれ、そして現在は、安倍晋三首相を支える派閥(細田派)になっています。
森議員は、小渕総裁(首相)が急逝したとき、自民党幹事長を務めていたことから、総裁に昇格して首相となりました。いわば、
急場のリリーフとして登板したようなものです。当時の最大派閥であった経世会が、本格派の後継候補を用意するまでのつなぎだったわけです。ただ、第二派閥の番頭として、安倍晋三議員に引き継ぐまでの会長を務めていたことが、幹事長として腕を振るう基盤となり、そのことがリリーフに起用された理由になっていました。