男性も生きづらい現代社会。もっと楽になるために必要な考え方とは

 育児によるキャリアの中断や復職の難しさ、医学部入試による女性受験者の差別など、女性の生きづらが注目されている。しかし、男性の葛藤にはあまり焦点が当たっていない。  知らず知らずのうちに学習した「男はこうあるべき」との考えは、男性の生き方の選択肢を狭め、苦しみの原因となってしまう。  いったいどうすれば、男性はもっと楽に生きられるのか。男性学の第一人者・田中俊之氏の新刊『男子が10代のうちに考えておきたいこと』(岩波ジュニア新書)には、それらのヒントが書かれていた。

競争に勝ち、達成によって男らしさを証明する

 そもそも、「男らしさ」とは何を指すのか。田中氏は「競争を優位に進めるために求められる特性」と定義している。  受験、就職、社内の出世レース、結婚など、性別を問わず人生には競争がついてまわる。だが、とりわけ男性には「勝ち続けること」が求められやすい。 「どのような形で能力が発揮されるにしても、競争を通じて社会のなかで価値があるとされている目標を成し遂げること、つまり、男性は達成によって自らの<男らしさ>を証明できるのです」  難関大学に進学後は一流企業へ就職し、高いポストと収入を得る。そうなれば、他の男性よりも優位に立ち、結婚しやすいのは事実だ。だが、みんながこの「勝ちパターン」を得ようとすれば、競争は激しくなる。  どんなことでも「達成」できれば「男らしい」と思われる。しかし、競争に破れたり、男性が歩むべき道から外れた生き方をしたりすれば、その男性は「男らしくない」と見なされてしまう。

男性最大の苦しみは「働き続けること」

 男性にとって「仕事」は大きな関心ごとであり、「達成できない」状態に陥ったときのストレスは大きい。田中氏も、 「現代の日本で、男性だからこその不自由で最大のものは、四〇年にわたって働くというルールです」 と、仕事の負荷を強調する。  「男は仕事」という性役割を前提とした現在の社会システムでは、男性が大学卒業後から定年まで働き続けることが「普通」とされている。40年間、途中で長い期間休むことは想定されていないため、社会人になった男性は「とにかく働くしかない現実」に直面し、葛藤する。  結婚して家庭を持てば、「働くしかない現実」はいっそう強まる。一般的には男性の賃金の方が高いため、一家の稼ぎ手としてのプレッシャーは大きい。  満員電車や長時間労働を嫌ったり、いやおうなしに命じられる転勤を断りたいと思ったりしても、そうした「男性なら当たり前にしていること」に慣れないと社会人失格の烙印を押されてしまう。  働くしかない生活を送れば、家庭で過ごす時間は短くなり、家事や育児にほぼかかわれない。仕事を通じた人間関係しか持たない男性は、定年後には家庭にも地域にも居場所がなくなり、孤独な暮らしが待っている可能性がある。「働くことしかしなかった」人生の代償を、定年後に払わなければならなくなるのだ。
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男性が生きやすくなるには「比較をやめること」が必要
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