今回の選挙結果から、社会労働党の123議席とシウダダノスの57議席を足せば180議席となって過半数を確保できた。スペインに安定した政治を取り戻すには格好の機会が与えられたのであった。ところが、シウダダノスは選挙選中から中道から右派に方向転換するようになり、カタルーニャ問題で柔軟姿勢を保っている社会労働党を強く批判もした。その結果、両党が連携するのは困難になっていた。
とはいえ、両党はラホイ前首相を辞任させるために連携したほどであったから、選挙戦中のシウダダノスは社会労働党を激しく非難したが、国家の発展という観点から両党は連携するのではないかと期待された。
しかし、シウダダノスの党首アルベル・リベラはバスから途中下車した感じで、この連携の模索を突きはねた。
この党首の姿勢に反発して党の一部幹部は離党した。また、サンチェス首相の方もリベラを説得する為の歩み寄りもしていない。両党首の間に政治イデオロギーや両党間の摩擦を超越して国家の為に一緒に戦うというメンタルに欠けているのである。
サンチェスもリベラも政党の党首ではあるが、残念ながら並みの政治家でしかない。前述した6人の首相の中でアドルフォ・スアレスとフェリペ・ゴンサレスが仮に現在のサンチェス首相の立場にあれば、リベラを説得していたのは間違いない。というのも、スアレスは政治イデオロギーの違う政治家を一つにまとめて中道民主同盟という政党を5年間政権に就かせたからである。
また12年間政権を担ったフェリペ・ゴンサレスも超一級の政治家で、現在も特にラテンアメリカの政治指導者から相談を受けているほどで信頼が厚い。また、彼にはアルフォンソ・ゲッラ副首相が10年間彼を支え、難しい交渉はこの副首相が担当していた。この二人の能力があって12年間も政権を維持できたのであった。
ところが、サンチェス首相にもリベラ党首にも上述した2人の首相が備えていた資質はもっていない。また有能な参謀もいない。
シウダダノスとの連携のかわりに、サンチェス首相が視線を向けたのがポデーモスとの連携であった。
ポデーモスは42議席しかなく、社会労働党の123議席と連携しても165議席しかなく過半数には及ばない。しかし、サンチェス首相は2回目の信任投票は反対票を上回るだけでよいということでポデーモスとの連携を模索した。
しかし、左派ポピュリズム政党ポデーモスの党首は、大学の政治学教授だったパブロ・イグレシアスであり、彼もまた自己主張の強い政治家だ。連携するのに副首相のポストと厚生省、労働省,科学省、文部省のポストを交換条件として要求した。当初は財務省のポストも要望していた。
サンチェス首相の指揮でポデーモスとの交渉に当たっていたカルメン・カルボ副首相はポデーモスと連携して過半数の176議席を確保できるのであれば彼らの要求も検討する余地はあるが、連携しても過半数に満たない。一旦政権に就いても過半数を満たさない上に、ポデーモスの影響が社会労働党の政策の遂行に邪魔になる可能性があるとして、お飾り的な副首相のポストに加え厚生省、住宅相、平等省の3つの省のポストを与えるとした。結局、双方の間で合意に至らなかった。
特にサンチェス首相はポデーモスのパブロ・イグレシアスの入閣は拒否した。彼は信頼を寄せるには不十分だとしたのである。
サンチェス首相は、連携するには政治的安定が必要だとした。それがポデーモスだけでは過半数は確保できない、しかもパブロ・イグレシアスには十分な信頼を寄せられないと指摘したのである。彼のこの指摘の背後には社会労働党の執行部や首相経験者からポデーモスの議員を入閣させることに強い反対があり、また一般企業や銀行からもポデーモスと連携することに強い反対があったようだ。それがサンチェス首相にプレッシャーとなっていたようだ。
前述したアルフォンソ・ゲッラ元副首相も「ポピュリスト政党や地方独立政党を連携して政治を行うのは相当に危険だ」と示唆している。(参照:「
OK Diario」)