総選挙から3か月。いまだ新政府が誕生しないスペインの異常事態。年明けまで実質的無政府状態の可能性も

スペイン下院議事堂

Ángel Turrado via Pixabay

最悪、1年間も新政府が不在になる可能性も……

 4月28日に実施されたスペイン総選挙から今日まで新政府が誕生しない状態が続いている。よって、総選挙前までの政府が暫定的に政権を担っている状態だ。  これまで首相を務めたペドロ・サンチェスが国王フェリペ6世によって首相候補の使命を受けて首相としての信任を得るべく7月22日下院議会に臨んだが、賛成が過半数を満たさず否決された。規定によってその3日後の25日に今度は賛成多数を満たすということで臨んだ同議会でも賛成124票、反対155票、棄権67票で首相信任は否決された。  これから政党間での模索が行われるが、9月23日までに賛成多数に至る展望が見いだせない場合は、翌日24日に国王によって議会は解散される。規定によって今回は47日間の選挙選となり、11月10日に総選挙が再度実施されることになる。仮に、総選挙となっても新政府が誕生するのは来年の2月になる。即ち、この1年間は実質的には無政府状態が続くということになる。実際、今年度の予算は未だ議会で承認を得ていない状態だ。

なぜここまでこじれている?

 4月28日の総選挙で社会労働党(PSOE)が最大議席数を獲得したが、123議席で過半数の176議席には遥かに及ばない。この選挙前まで同党が政権を担っていたが、僅か85議席であった。この議席数では安定した政権の運営は困難であった。  今回の議会における首相信任の否決という結果から、スペインではなぜ複数の政党が連携しての連立政権が誕生しないのかということが問われている。  欧州連合(EU)の加盟国28か国の内で21か国の政権はすべて連立政権である。単独政党では過半数を満たさないからである。例えば、ドイツ(3政党による連立)、フランス(3政党)、イタリア(2政党)、ハンガリー(2政党)、ベルギー(3政党)、デンマーク(3政党)、フィンランド(5政党)、オランダ(4政党)、ポーランド(3政党)、スウェーデン(2政党)といった具合だ。(参照:「El Diario」)  ところが、スペインではこれまで連立政権を誕生させるという「政治文化」が欠如しているのだ。  フランコ将軍の独裁政治体制の後、1976年から民主化に移行してラホイ前首相が2016年に辞任するまでの40年間で首相は僅か6人だ。この6首相は常に単独政党で政権を運営して来た。アドルフォ・スアレス(中道民主同盟)、カルボ・ソテロ(中道民主同盟)、フェリペ・ゴンサレス(社会労働党)、ホセ・マリア・アズナール(国民党)、ホセ・ルイス・サパテロ(社会労働党)、マリアノ・ラホイ(国民党)の6人で、それぞれ単独政党でしかも比較的長期政権であった。特に、フェリペ・ゴンサレスは12年間政権に就いていた。社会労働党と国民党の2大政党がスペイン政治を交互に担って来たのだ。  ところが、40年のマンネリ化した政治から政治の腐敗や社会の不平等などに若者の間から不満が生じてそれが新しい政党の誕生を生んだ。ポデーモスがそうである。また、カタルーニャの独立問題に反発して政党シウダダノスも誕生した。それまで2大政党に投票していた市民がこの新しい2政党を支持するようになったのである。その影響で、2大政党は支持率が減少し、よって議会での議席数も減少して単独では過半数の議席を確保することができなくなったのである。
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「連立政権」を困難にする各党のエゴ
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