今年に入って、世間を震撼させる引きこもり関連事件が相次いで発生。実際に引きこもっている中年たちは、今、何を思うのか。その声を拾った
「振り返ってみると、人生の8割近い期間を引きこもっていますね」
そう自虐的に話すのは山下和正さん(仮名・37歳)。勤めていたゲーム会社を辞めて完全に引きこもるようになってからは1年ほどだが、小中学校時代は不登校、高校は通信制で大学は中退だ。
「父は海外赴任でほとんど家におらず、中学2年生のときに母が自殺したんですが、それを機に家を出て一人暮らしを始めました。父とは連絡を一切取っておらず、何年か前に入院したと親戚から聞きましたね。父が嫌いとか、学校でいじめられたとかじゃないんですが、他人と関わらず一人で過ごすのが好きなんです」
買い物はすべてネットで、1か月間、一切外出しないこともあるとか。ただ、事件に関連して、部屋に籠ることの弊害もあるという。
「ずっと部屋から出ないと、部屋という空間が自分の世界になって、外の世界と完全に別物になってくるんですよね。そうすると、外の人が考えてることがわからなくなって、みんなが自分を蔑んでいる敵に見えてくるというか。まあ、僕は引きこもっている今の生活が理想なので、外に出ようとは思わないですが」
弊害を自覚しつつも外に出ることも考えない彼ら。一方的な偏見に基づく報道などが、彼らの孤立を一層加速させないようにする必要があるだろう。
【関水徹平氏】
立正大学准教授。専門は社会学。院生時代には支援ボランティア活動もし、引きこもり問題に詳しい。著書に『
「ひきこもり」経験の社会学』(左右社)など
【藤原宏美氏】
引きこもり支援活動家。不登校児童や引きこもりのサポートを行う「トカネット」代表理事。20年以上、同問題と向き合う。共著に『
独身・無職者のリアル』(関水氏と共著)
― 引きこもり中年の衝撃 ―