中年引きこもり問題。必要なのは就労支援一辺倒ではなく「居場所づくり」

撮影/杉原洋平 藤井洋平 モデル/艦長

就労支援一辺倒の自治体。必要なのは“居場所づくり”

 今年5月、10年以上にわたって引きこもってきたとみられる51歳の男が、神奈川県川崎市の路上で小学生や保護者ら18人を次々と刺し、最後は自ら首を切って自殺(川崎殺傷事件)する事件が発生。さらに6月には元農林水産事務次官が、引きこもりと家庭内暴力を続ける44歳の息子を刺殺(元農水事務次官事件)するという、衝撃的な事件が相次いだ。その直前の3月、内閣府は40~64歳の中高年引きこもりの人数は推計61万人に上るという調査結果を発表。この10年で引きこもりを取り巻く環境には、どのような変化が起きているのか。社会学者の関水徹平氏はこう語る。 「’10年以降、引きこもりの長期化・高齢化が注目されるようになりました。内閣府の調査では、中高年の引きこもりの3分の1は引きこもり状態が10年以上続いています。対策として、政府は引きこもり地域支援センターを設置。’13年には引きこもりも対象となる生活困窮者自立支援法が成立しています。しかし、その内容は就労支援に偏っていて居場所づくりなどの根本的な支援にはなっていないのが現状です」  引きこもり支援活動家の藤原宏美氏も同意しつつ、課題を指摘。 「この10年で相談窓口を置く自治体が増えたことは評価すべきですが、足並みは揃っておらず、対応に温度差があるのは事実。また先日、引きこもりを子に持つ親の会を開いたのですが、皆さん『川崎殺傷事件』『元農水事務次官事件』で、『引きこもり=犯罪者予備軍』と世間に誤解されることを恐れていました。ゲームへの執着が過剰に強調されていた感もあり、報道のあり方も考えるべきでしょう」

引きこもり中年の家庭は決して裕福などではない

 そもそも引きこもる原因は? 「一概には言えませんが、やはり“居場所がない”のが大きいと思います。内閣府の調査からは、引きこもりの8割以上は外出できるものの、家族以外に会話をする相手・関係性がない状態にあることが確認できます」(関水氏)  また、働かず親の資金で生活をすることから、従来は裕福な家庭で多いのではないかと想定されてきたが、実情は違うそうだ。 「内閣府の調査では、引きこもり家庭の経済レベルで最も多いのは“中の下”以下の層でした。貧困にあえぐ家庭も多く、年金だけでは足りずに70歳の母親がパートに出て生活費を稼ぐ、『8050問題(80代の親が50代の子の生活を支える問題)』を地でいくケースも見られます」(同)  この10年で少しずつではあるが、現状と課題が可視化されてきた引きこもり問題。引きこもり中年の実情に迫るべく、当事者たちの声を拾い、現状をリポートしていく。
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