「会社員時代にコツコツ貯めたお金が400万円ありました。すべて投資に注ぎ込むのは不安だとNに話したところ、スルガ銀行での借り入れを勧められた。でも、独立したばかりでローン審査なんて通らない。するとMが『(以前勤務していた)会社の名刺持ってる?』と言うんです。Mの指示通りに、勤務先に前職を書き込み、年収も実際より50万円“水増し”し、350万円の融資が下りました」
結局、Tさんは自己資金を合わせ600万円をNに投資。だが、配当があったのはわずか1回で、しかも、現金での手渡しだった。
「当然、振り込みだと思っていたので、不信感を抱きました。投資の契約書を結びたいと再三、言っていたのですが、返事もない。元本を返せと言ったら配当も止まり、ある日突然『すみません』とひと言だけLINEが来て、そのままブロックされたのです」
今回、話を聞いた被害者たちの中には、多額の借金を背負ったことで、うつ病になった人や、仕事を辞めた人もいる。被害者の一人、Fさん(26歳)はこう話す。
「投資額は計700万円。もう人生を諦めることに決めたんです。今後、怪我やハプニングが起きたら、もう自殺するしかないかなって思っています」
限界まで精神を追い詰められた被害者たちの悲痛な叫びにどう答えるのか。行員だったM氏を電話で直撃すると、「取材はお断りいたします。私の口からお話しすることはない」の一本槍だった。
マッチングアプリで“カモ”をつかまえ詐欺にハメる手法も
一方、コーポ社にも話を聞くべく、登記簿にあった新宿区内の本店住所に足を運んでみた。そこは戸建て住居だったが人の気配はなく、呼び鈴を押しても誰も出なかった。N氏の携帯にも何度かかけたが応答がない。当事者への取材を諦めかけた頃、ようやくコーポ社の社長であるK氏と電話が繋がった。
「僕自身は、投資してほしいと持ちかけたことはない。全部N個人がやったこと。Nはウチの営業部長だと詐称しており、役員でもなければ社員でもありません」
N氏がコーポ社の名刺を持っていることに関しても「『自分で作った』と言っていました。勝手なことするなと怒りましたよ」とのこと。あくまで会社は無関係と主張。しかし、デート商法の事件では、このK氏がマッチングアプリを利用して知り合った女性に、N氏が投資するよう勧誘したはずだ。
「本人から仕事上の相談を受け、『働かなくても稼げる方法ってないか?』という言葉が出ました。自分は投資に詳しくないので、詳しいNを繋いだだけ。その後のことはN個人がやったこと」
K氏は自分も被害者と繰り返すばかりだった。しかし、デート商法の事件で原告の代理人を務める弁護士の加藤博太郎氏は「K氏も一味」と見ている。
「マッチングアプリで女性と知り合って、その女性が投資に興味がある態度をとるとNを紹介するスキームができ上がっていたようです。デート商法のほか、(今回紹介した)同じ人物らが関わった投資詐欺に関しても、すでに警察に被害届が出されており、近日中に真相が解明されるでしょう」
冒頭で紹介したスルガ銀行の調査結果には、M氏が関わった不正融資の債務者は31人いると記載されている。被害者たちへの債務の免除を含めた救済についてどう考えているのか。スルガ銀行広報室は「お客さまのご事情をお窺いし、ご事情に応じて真摯にご相談に対応させていただきます」と回答。さらに被害者が口々に証言した「スルガ銀行の行員がいたから信じた」という点には以下のように答えた。
「外部の不正調査専門会社や弁護士の協力のもと調査を行いましたが、各調査におきまして懲戒解雇した元行員が投資内容をお客さまに直接ご説明したとの事実は確認されておりません。お客さまにご迷惑をおかけしていることは、誠に申し訳なく思っております」
M氏の行員時代の名刺には同行のキャッチコピーである「夢先案内人」との文字が躍る。被害者たちにとって、まさに真逆の“地獄案内人”となったスルガ銀行。若者たちの未来を奪った事件に対し、今後、どのように責任をとるのかが注目される。