「中規模書店」で相次ぐ経営危機――大都市近郊でも増える「書店ゼロエリア」

苦境に陥る「近郊の沿線書店」――大都市近郊でも「書店ゼロ」エリアが

 さて「天牛堺書店」と「文教堂」には共通点がある。その1つが、いずれも多くの店舗が「大都市圏の鉄道沿線で展開する中規模書店」だということだ。
大阪市の文教堂

文教堂や天牛堺書店の多くの店舗は駅チカ立地の中規模店舗であった(大阪市の文教堂)

 大都市圏では大抵の場合、数駅電車に乗れば「紀伊國屋書店」や「ジュンク堂書店」などの超大型書店が立地。これらの超大型書店はネット書店に対抗しうる品揃えや書籍以外のワークショップ、著者サイン会などで大きな集客力を持つのに対し、中小規模の書店はその品揃えの中途半端さから客離れが深刻なものとなっている。
ジュンク堂書店難波店

天牛堺書店にとって「全店舗のライバル」であった超大型書店・ジュンク堂書店難波店。
天牛堺書店の拠点である南海線の終点・南海難波駅の近くには旭屋書店とジュンク堂書店の旗艦店がある

 今年経営破綻した「なにわ書房」(札幌市)、「BOOK JAM K&S」(札幌市、喜久屋書店と提携)、そして現在経営再建中の「福家書店」(大阪府箕面市、旗艦店は銀座(閉店)と新宿)、「廣文館」(広島市、東京都内にも出店)なども、文教堂や天牛堺書店と同じく、一部旗艦店は大型であるものの多くの店舗が「大都市近郊」の「中規模店」という特徴を持つ。  とくに、文教堂は小田急や東急などの沿線、天牛堺書店は南海沿線の駅チカにドミナント展開しており、多くの店舗から「超大型書店があるようなターミナル駅にアクセスしやすい」という共通点があった。文教堂のうち2019年に入って以降半年間で閉店した「書店」は東陽町、鷺ノ宮駅、渋谷、武蔵小金井、経堂(いずれも東京都)、横浜北山田、江田駅、みなとみらい駅、大船モール店(いずれも神奈川県)、川口朝日町、本庄(いずれも埼玉県)、小山駅(栃木県)、千歳(北海道)。殆どが大都市近郊の立地かつ「大型書店がある街まで電車で1本」だということが分かる。天牛堺書店に至っては、末期にはほぼ全店がジュンク堂書店と旭屋書店の旗艦店がある「難波まで電車で1本」という立地であった。  なお、2016年に開店した文教堂の都心旗艦店「カルチャーエージェント渋谷店」は駅から少し離れていたものの(徒歩7分ほど)、ブックカフェが人気を集めており混雑することも少なくなかったが、「書店」としての規模は小さく、僅か3年足らずでの閉店となってしまった。
天牛堺書店の店舗分布(2017年)

天牛堺書店の店舗分布(2017年)。
大型書店がある「難波まで電車で1本」の店舗が殆どだ

新時代の「旗艦店」として期待された文教堂カルチャーエージェント渋谷店も5月に閉店。
ブックカフェの客は少なくなかったように思えたが…

 また、文教堂に関しては「アニメガ」も同様の問題を抱えていたように思う。アニメガは文教堂の「書店」と比較して、その性格から都心立地の店舗が多かった。それら都心店の多くは「アニメイト」など老舗の大手アニメショップと競合関係にあったものの、アニメガはそれらの競合店に比べて品揃えやイベント企画など様々な面で中途半端であった印象は否めなかった。実際、近隣にアニメイトなどの競合店があった大都市都心のアニメガ店舗は、その多くがここ約1~2年のあいだに閉店するに至っている(札幌パルコ店、渋谷店、新宿アルタ店、新宿マルイアネックス店、横浜ビブレ店、名古屋店、京都ロフト店、心斎橋OPA店など)。  とはいえ、文教堂は少ないながらもアニメガなどとの複合書店を地方中核都市など競合店が少ないエリアにも出店、貴重な業態として大きな集客力を持つ店舗もあり、その方向性は間違っていなかったともいえる。  複合書店で販売される商品は、その多くが書籍よりも利益率が高い。大手取次傘下というスケールメリットを生かすかたちで、今後はこうしたサブカル分野における競合店が少ないエリアや、日本の文化やサブカルに興味を持つ外国人観光客も取り込めるような立地を狙って複合書店を展開していくこともひとつの再建策になろう。
アニメガ名古屋店

期待された「アニメガ」でも閉店が相次ぐ(名古屋市)。
写真の名古屋店は入居ビル閉鎖に伴う閉店であったが、移転かなわず「名古屋から完全撤退」となってしまった

厳しさ増す大都市圏沿線の中規模書店

 厳しさを増す大都市圏沿線の中規模書店。「天牛堺書店」の本社があった堺市周辺では多くの書店が同社の運営となっていたため、経営破綻が地域に与える影響は非常に大きなものとなった。とくに、堺市に隣接する高石市は大都市圏に位置しながらも個人経営以外の書店が消滅。取材中、同市に住むという10代の女子学生は「近所の本屋さんってここしかなかったから確かに困る。文房具も大抵ここで買ってたからなぁ…」と語った。  書籍取次大手「トーハン」によると、2017年7月現在で全国の自治体・行政区の2割強が「書店ゼロ自治体」となっているという。それらの多くは過疎地域であるが、大型書店同士の激しい競争のなか、今後「大都市近郊地域」にも書店ゼロエリアが増えていく可能性も高い。
閉店した天牛堺書店・高石店

閉店した天牛堺書店・高石店(大阪府高石市)。
駅ビルへの出店だったが後継店舗は決まっていない

<取材・文・撮影/若杉優貴 重永瞬 おかみ(都市商業研究所)>
若手研究者で作る「商業」と「まちづくり」の研究団体『都市商業研究所』。Webサイト「都商研ニュース」では、研究員の独自取材や各社のプレスリリースなどを基に、商業とまちづくりに興味がある人に対して「都市」と「商業」の動きを分かりやすく解説している。Twitterアカウントは「@toshouken
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