「共同親権」はモラハラ男が元妻を支配するツールになりかねない<モラ夫バスターな日々20>

<まんが/榎本まみ>

弁護士・大貫憲介の「モラ夫バスターな日々」<20>

 40代の女性が相談に来た。第1子を妊娠したころから、夫が怒鳴るようになったという。毎日のように怒鳴られてきた苦労が顔に刻まれていて、モラハラの凄惨さがわかる。  私が、「お辛そうですし、別居、離婚をお考えになった方がいいのではないですか」と水を向けたところ、女性は、「そんなことすると、主人が怒ります」と怯えた。

暴力団員や社長には逆らえないくせに、妻は虐待するモラ夫

 モラ被害妻たちは、日常的に、夫から、怒鳴られ、ディスられ、怯えてしまう。そして、怒鳴られないよう、怒らせないよう、細心の注意を払うようになる。それでも、モラ夫は、妻を怒鳴り、怒る。  自分が失敗して怒らせたと思い込み、泣き出す妻もいる。モラ夫は、「泣くんじゃない! 俺がイジメたみたいじゃないか。泣きたいのは俺のほうだ!」などと怒鳴り、涙を封じようとする。涙が怖いのだろう。実は、殆どのモラ夫たちは、気が小さいのだ。  モラ夫は、なぜ怒るのか。それは、他者を支配し、コントロールするのに、怒りが最も安易な手段だからである。怒りは、決して、感情が暴発して発動するものではなく、計算の上に発動されるものである。  例えば、列に割り込んだのが、女子高生であれば怒って注意する人も、怖い暴力団員であれば注意しない。社長が酷いことを言っても怒らないが、それが部下なら躊躇しない、そういう人は多い。皆、計算して怒っている。  モラ夫たちは、妻を支配し、コントロールするために怒る。したがって、モラ夫の怒りの責任は、妻にはない。妻に落ち度があってもなくても、モラ夫は、怒る。その邪まな意図に問題がある。

夫恐怖症に陥る妻たち

 日常的にモラ夫の怒り、怒鳴り声に接していると、被害妻は、恐怖症に陥る。モラ夫の顔が少し歪んだだけで、怒りの兆候を感じただけで怯える。足音が、咳払いが聞こえただけで、顔を見ただけで、動悸がする。ドアのガチャ音、モラ夫の帰宅時刻が近づくと口から心臓が飛び出そうになる。  そんな妻たちも、別居し、安全が確保されると、恐怖症は多少収まる。安全な日々が続くと、少しずつ、辛かった日々を忘れていくこともできる。しかし、試練は続く。モラ度が高いほど、モラ夫は、離婚に反対する。弁護士を入れての離婚協議や離婚調停を経ないと離婚できないことも多い。  2016年の離婚総数は、216,798件、離婚調停は47,717件、離婚裁判は8,807件であった。つまり、離婚の5件に1件強は離婚調停を経ている。  まず、調停自体が被害妻にとっては試練である。同じ家裁にいるだけで、不安が襲う。モラ夫の姿が見え、声が聞こえようものなら、不安は、一気に高まる。調停委員は、50代、60代であり、モラ文化のなかで生きてきたので、モラ夫に同情的であることも多い。
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モラ夫が利用しかねない「共同親権」の危険性
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