あれから何度もその人の死の現場に通った。
香港警察は自殺と発表したが、本当にそうだろうか?
35歳男性。その人は僕と同世代だった。
明日のデモのルートに、建設中のビルから法案撤回の垂れ幕をかけようとしていたのだ。
そこに来た警察、消防ともみ合いになり地上に落ちた。
時刻は林鄭月娥の延期会見の1時間後だった。
明日のデモを誰よりも待ち望んでいただろう。
まして、そこはビルの4階ほどの場所だ。
これだけ高層ビルがひしめく香港で、わざわざ4階から自殺する者がいるだろうか?
僕のSNSに香港市民からメッセージか寄せられた。
「香港人です。若者が柵を乗り越えて飛び降りようとした時、消防士が捕まろうとして服が脱けて、それで若者が転落したんです……。本当こんな政権のせいで……」
さらに別のツイートには、柵にしがみつくその人の姿がはっきりと写っていた。
その人は最後の瞬間まで生きようとしていた。
生きようともがいていたはずだ。
そんな彼の死を自殺と片付けることは僕にはとてもできない。
香港の未来を変えようとした男が、このタイミングで死ぬはずがないんだ。
あの「3文字」がまた頭をよぎる。深い深い先の見えない霧の中へ、いよいよ歩いていくような気分だった。しかし、街は不気味なほどに静かだった。
すべては明日。明日決まる。今夜も立法会周辺にはピクニックの若者たちが集っていた。
「絶対、無理しない。熱くならない。危なくなったらすぐ逃げる」
それが僕ら3人の合言葉だった。それはもちろん辺野古や高江で学んだことだ。
ホテルに帰ると、ツインのはずがなぜか手違いでダブルベットだった。
何でやねん!と嘆きながら朝日と男ふたり、ダブルベットで眠った。
そんなこと気にならないぐらい、すぐに眠りに落ちた。
疲れ果てていたんだ。
警察の横暴を止めることを訴えるビラ
短期集中連載:大袈裟太郎的香港最前線ルポ4
<取材・写真・文/ラッパー 大袈裟太郎>
おおげさたろう●1982年生まれ。本名、猪股東吾。リアルタイムドキュメンタリスト/現代記録作家。ラッパー、人力車夫。2016年高江の安倍昭恵騒動を機に沖縄へ移住。やまとんちゅという加害側の視点から高江、辺野古の取材を続け、オスプレイ墜落現場や籠池家ルポで「規制線の中から発信する男」と呼ばれる。 2019年は台湾、香港、韓国、沖縄と極東の最前線を巡り「フェイクニュース」の時代にあらがう。2020年6月よりBLM取材のため渡米。
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