「反対派ばかりではなく、賛成派の声も聞け」沖縄にいると常にネットに寄せられるこの手のリプライが、香港では一切来ないことに気づいた。やはり日頃、ウヨ様諸君が言っている「公平性」など単なる欺瞞に過ぎなかったようだ。
それでもやはり、沖縄でもそうしているように、法案に賛成している人の意見を聞きたいと思い、街を歩いた。
タクシードライバーの60代の男性は、ゴリゴリの法案賛成派だった。
「中国政府はこの20年で経済を大発展させた。すごいじゃないか! 昔はみんなろくに飯も食えなかったんだ。今の中国のシステムは良いよ。多少、自由が減っても、経済が発展すればいいいじゃないか。私は中国政府は怖くない。怖いのは今の香港の若者だ。こないだのデモ? 100万人とかいうけど、マスコミは偏ってるんだよ。本当は50万人ぐらいしかいなかったはずだ」
「いや、50万人でもすごいだろ、、」と心の中でツッコミながら、僕が感じたのは圧倒的なデジャブ感だった。
人権か経済かで民を分断する点、反対陣営を危険とする点、マスコミはデモの参加人数をごまかしているという主張。
すべて沖縄で聞いたことのある話ばかりだった。
なぜここまで? 同じなのだろう、、、。
迷宮に迷い込んだはずが、そこは慣れ親しんだ迷宮だったのか?
僕は面を食らった、、、。
別の男性にも話を聞いた。彼も60代、職業は不詳。彼は賛成派ではないが、事実上の容認派だった。
「NO good 。法案は良いとは思えないけど、中国政府に逆らうと香港は損をする」
これも沖縄で聞く辺野古容認派の意見とかなり重なって見えた。
さらに他数名に話を聞いたが、街やネットの噂レベルでは、デモに参加すると日当がもらえる。というものや、CIAがこのデモのバックにいるというものもあった。
まったく同じだ、、、。
アメリカと中国を置き換えただけで、今、香港を取り巻くものと沖縄を取り巻くものは、細部まで酷似していた。
マニュアルがあるのでは? そんな憶測が頭をよぎった。それは大国が小国を支配するためのマニュアルであり、国家が市民を抑え込むためのマニュアルだ。
しかしまさかアメリカと中国は同じマニュアルを共有しないだろう?? 旧西側陣営と旧東側陣営が同じマニュアルを共有するわけがない、、、??
いや、、、もはや中国は共産主義国では、ないのかもしれない、、、。
先ほどの、中国派香港人たちの話を思い出してほしい。彼らが語ったのは、人権よりも経済競争優先、勝つか負けるか、自己責任の世界。日本に置き換えると竹中平蔵や維新議員たちの主張と符合するのではないか?
中国はもう共産主義でもなければ、左でもない。民主主義を経ずに資本主義を導入した、一党独裁型新自由主義国家なのではないだろうか、、、、。
その考えに行き着くと、鳥肌がたった。
外国人記者クラブの空調のせいではないだろう。
今までの固定観念が、一瞬で崩れていくのを感じた。
日本で右だ左だなどと罵り合っていることこそが、何ひとつ価値のないオママゴトだった。世界はもう、とっくに右か左かではなく、大国の権力か個人の権利か、のフェーズに入っているのだと実感した。
そしてこの闘いは自治のための闘いなのだ。
「香港の未来は香港人が決める」
そのヴィジョンを香港では「民主自決」と呼ぶと知った時、震えた。
「沖縄の未来はウチナーンチュが決める」
そのヴィジョンを沖縄では「民族自決」と呼ぶのである。
ここまで一致することに打ち震えたんだ。
僕の中で沖縄と香港は完全につながった。
これは、個人の自由や権利、そしてマイノリティの自治を、大国に奪われないための闘い。アイデンティティを守る闘いなのだ。
そして、僕はたとえ相手がアメリカであろうと、中国だろうと、日本だろうと、個人の権利対国家の権力ならば、常に個人たちの側に在り続けることを肚に決めたのだった。