安冨氏は2018年、埼玉県東松山市長選挙に出馬。馬に乗ったり、選挙権のない子供たちに話しかけたりする独自の選挙運動を展開して注目を集めたが、落選している。
「普通の選挙は、政策を訴える建前になっています。だから、太郎さんもれいわ新選組もいくつかの政策を掲げて、それを推進するという“建前”になっています。でも、私は政策をどうこうして何とかなる段階ではもうない、と考えている。
そうではなく、政治の原則を変えないといけない。私たちの住むこの“豪華な地獄”は『国民国家』という名前のシステム。これがもはや機能しなくなった。
機能しなくなり始めたのは、第一次世界大戦のとき。もうそこから100年も経っているので、完全に機能しなくなっている。だけど、それがまだ私たちの社会の根幹になっていることに問題の本質がある」(安冨氏)
機能不全に陥った「国民国家」が、インターネットや高齢化、アジアの台頭といった大きな波に洗われて、崩壊の危機に瀕している。「これが私たちの時代の相」だと安冨氏は指摘する。
「この時代にあっては、社会の目的・政治の原則である『国民国家制度』の維持。つまり別の言葉で言えば、『富国強兵』です。『富国強兵』と言ってしまうと古臭いんで『経済発展』とか『GDP何%』とか言っていますが、それは実は言い換えに過ぎないと私は思います」(同)
「国民国家の維持」に代わる新たな原則は「子供を守ること」
この国の社会は「新たな原則」に移行する段階に来ている、と安冨氏は言う。ではその「原則」とは何か。
「私たちに生きる目的は何かあるのかと考えたら、それは『子供を守ること』です。アリやハチの社会であっても目的は同じです」(安冨氏)
政治の判断すべての基礎に、「子供を守ること」を置く。これが生きづらさから私たちを解放し、現代の危機から私たちを救い出す「唯一の道だ」と安冨氏は語った。
安冨氏の言葉は、既存の政治ジャーナリズムがすくい取るには難しい位相にある。だが、誰もが漠然と感じ取っていたことを明快に切り出した発言でもある。