上谷さくら弁護士
大学生による性暴力事件や就活セクハラなど、性犯罪に関わる報道がなされるのも珍しくなくなった。とりわけ、性暴力事件の無罪判決など立件の難しさゆえ、被害者が声を出しにくいといった問題があり、身近に起きている性犯罪が潜在化しているのも指摘されている。
そうした中、慶應義塾大学で6月21日、「キャンパスにおける性犯罪を防止するには」と題したシンポジウムが開催された。性犯罪に詳しい弁護士や性犯罪をなくすための啓蒙・教育活動をしている有識者らが集結し、性暴力の現状と活動を通して得られた共通理解について議論した。
まずは性犯罪やセクハラ問題に知見があり、神田お茶の水法律事務所に所属する上谷さくら弁護士が登壇。「無理やりに性行等されたことがある割合は、女性は7.8%と国民の13人に1人が経験している。どれだけ社会に性犯罪が蔓延しているかが最近知られるようになってきた。」と述べた。
性犯罪に対して社会的関心が高まっているのは、2017年に性犯罪に関する刑法改正が110年ぶりに行われたことが大きいという。上谷弁護士は主なポイントを3つ説明した。
(1)強姦罪から強制性交等罪へ変わる
・被害者の性別を問わない(従来の被害者は女性のみ)
・性交のみならず、肛門、口腔性交も含む
・法定刑の下限が3年から5年に引き上げ
(2)強姦罪などの親告罪の規定を削除し、非親告罪としたこと
・被害者の告訴が不要となり、被害者の負担減
(3)監護者わいせつ罪、監護者強制性交の新設
・18歳未満の者を監護する者が、影響力に乗じてわいせつな行為又は性交等をした場合に処罰する
これまでは警察に行って被害届を出しても、事件にするかどうかは自己判断に任されていた。仮に告訴をしても加害者からの逆恨みの恐れがあるため、性犯罪被害にあっても訴えづらい課題があった。
これが刑法が改正されたことで、告訴不要となったこと。また、法定刑が5年になったことで、性犯罪に対する罪の重さがようやく法として整備されてきた状況を説明した。
しかし、一方で上谷弁護士によると「性犯罪は立件のハードルが高く、不起訴処分になるケースが多い」という。
女性が性交に同意していると男性が誤信する状況だった、男性からみて明らかに抵抗した様子は見られないなどの見解から、性犯罪として立件できなかった事例を紹介した。
こういった危害、性犯罪を起こす加害者像とはどのようなものなのだろうか。
「一般的に考えられている加害者像と事件を起こしている加害者像は異なっている。モテない、性欲が異常に強いといったイメージがあるが、四大卒や妻子持ち、社会的地位のある職業などエリートが加害者のにケースが多い」
エリート男性は、「自分はエリートだからこれくらいしても許される、女性は触られたいと思っている」と思い込んでしまう。エリートが性犯罪に走る理由には、このような認知の歪みが原因になっているという。
また、被害者像についても誤解されている面もあると上谷弁護士は続けた。
「遅くまで遊んでいる、露出度が高い格好をしていると思われがちだが、泣き寝入りしそうな人が被害者になりやすい。性格がおとなしい、体型が小柄、加害者と上下関係があるなど立場的に逆らいにくいといった特徴がある。
被害者自身も先輩・後輩の関係性を壊したくない、性被害を受けたのは自分のせいと思うなど、認知の歪みから被害を訴えないことが多く性犯罪が潜在化する原因となっている」
もし、性犯罪に巻き込まれたらどうすれば良いのだろうか。
「まずは各都道府県にある被害者支援センターに相談し事情を説明すること。また、刑事事件の相談は預貯金が300万円以下の場合、費用が無料になる制度があるので、弁護士に積極的に相談すると良い」