遺骨で帰国するベトナム人技能実習生。彼らを弔った尼僧たちの訴え<タム・チー氏✕吉水慈豊氏>

遺骨になった子供と再開する親の気持ちを考えてほしい

―― タム・チーさんは葬儀中にどういう思いで読経しているのですか。 タム・チー:そうですね……日本で色々な目に遭って、最愛の家族を残して逝かなきゃいけない貴方もさぞ辛いでしょう。でも、日本に留まるのは苦しいだろうから、どうか魂はベトナムへ帰って安らかにお眠りください。そして、全てを洗い流してどうか成仏なさってください……こういう気持ちです。お経を上げている時は様々な想いが去来し、本当に重い気持ちになります。  葬儀が終わると、家族が遺骨を持ってベトナムへ帰ります。その後も日新窟では葬儀を行った方々の位牌を安置して供養を続けています。この6月には「日越親善供養塔」を建立し、実習生や留学生たちの位牌と御霊を供養塔へ移します。  ただ、先ほども申し上げたとおり、家族が日本に来られないことがあります。そういう場合は、私がベトナムに帰国する際に骨壺を持参して家族へ手渡しています。今年は2つの家族に骨壺を届けました。一人の母親はまるで生きている我が子の頭を撫でるように、愛おしそうに骨壺を撫でていました。もう一人の母親は私の足元に跪いて足に接吻し、「息子が日本でお世話になりました。立派な葬儀を有難うございました」と言われました。友人の方々は私に手を合わせながら「先生のおかげで魂がベトナムに帰ってこられる」と喜んでおられました。  親にとって日本へ行った子供は近所でも評判の自慢の息子・娘です。親は子供に一家の大黒柱としてとても期待をかけていて、その成長した姿が見られる帰国の日を楽しみにしています。そんなある日、日本から連絡を受けて、再会した子供の姿は遺体か骨壺なのです。どうかその気持ちを考えてください。

外国人への救済制度を整えて

―― 日新窟では技能実習生や留学生の支援、保護もしています。 吉水慈豊さん(以下、吉水):最近は、医療関係に関する相談が相次いでいます。たとえば、ある元実習生(34歳男性)は不法就労中に作業現場から転落して頭を打ち、その後に脳梗塞を発症して病院に運ばれました。手術は無事に済みましたが、860万円の治療費と右半身不随の後遺症が残りました。さらに、日本に来るために実家を担保にして借りた150万円の借金も残っていました。  他の元実習生(25歳男性)は不法就労中に全身に大火傷を負って治療をうけ、未だに入院しています。これまでに会社の社長が100万円、ベトナムの家族は200万円も負担しましたが、今後はどうなるか分かりません。これらの件は労務士の先生に相談して対応を検討しているところです。  女性からの相談もあります。ある元実習生(20代女性)は失踪中に妊娠、入管に出頭しようとしたところ、昨年8月に切迫早産で600グラムの未熟児を出産しました。赤ちゃんはずっと入院していたのですが、今年3月に亡くなってしまいました。その間の医療費は2000万円に上っており、本人と自治体から相談をうけました。自治体からの相談内容は、帰国したいのだけど、飛行機代がないので支援してほしいという内容でした。出発日が決まっていたので、一度電話で話してチケットを購入しEメールで送ってあげました。病院の支払いは本人からの話によると、最終的に彼女はベトナムの家族が実家を売って工面した50万円を支払って帰国の途につきました。  先月にはベトナム人の子供を妊娠した実習生(33歳)を保護しました。彼女は妊娠が発覚したら強制的に帰国させられることを恐れ、中国地方から一人で日新窟まで駆け込んできたのです。その後、私やタム・チーさん、社労士の先生が立ち会って、会社と本人の話し合いの場を設けた結果、産休を認めてくれました。技能実習生は妊娠を隠さなくていい、産休をとることができるんだという良い前例が生まれたと嬉しく思っています。  日新窟に駆け込んできた日、彼女は夕食を食べながらポロポロ泣き出し、「皆さんにこんなに力になってもらえるなんて……」と声を震わせていました。これまでとても孤独で不安だったのだと思います。  現在、私たちは本人、病院、自治体、ベトナム大使館などから相談をうけて個別に対応していますが、限界があります。日本社会として一日も早く外国人に対する救済措置・救済制度を整えてほしいと願っています。 ―― 実習生、留学生とその家族は日本のことを恨んでいますか。 タム・チー:そういう言葉は使いたくありませんが、日本が嫌いになる人が多いのは事実です。日本とベトナムは同じ仏教国です。お互いに慈悲や平等の思想を大切にできるよう祈ります。 (聞き手・構成 杉原悠人)
げっかんにっぽん●Twitter ID=@GekkanNippon。「日本の自立と再生を目指す、闘う言論誌」を標榜する保守系オピニオン誌。「左右」という偏狭な枠組みに囚われない硬派な論調とスタンスで知られる。
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月刊日本2019年7月号

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