参議院インターネット審議中継より
親による体罰禁止を明記した改正児童虐待防止法と改正児童福祉法が6月19日、可決、成立した。今回の改正で、親や児童福祉施設の施設長らがしつけの一環で子どもに体罰を加えることは禁止された。しかし、罰則規定はなく、虐待の防止にどのくらい効果があるのか、かなり疑問だ。
今回の改正では、体罰が禁止されただけでなく、体罰の根拠となる民法の「懲戒権」を見直すことも盛り込まれた。
これらの報道を受け、ネットには改正を歓迎する声も上がっている。だが、筆者はまず立法の突然さにとまどいを覚えた。
今年1月、子どもの権利条約に批准している日本の官僚が国連子どもの権利委員会で改善報告を行った。その際、他国から「日本は子どもに対してやさしい社会ではない。日本には子どもの権利を包括的かつ総合的に取り扱うシステムがない。日本では虐待ではない体罰を禁じていないが、暴力を使う形での養育をやめて、体罰の全面禁止にしないのか。いつまで待てば変わるのか」など懸念の声が上がった。
(※鋭い指摘に官僚がたじたじになっているようすは、
国連のビデオで日本語の同時通訳音声付きで見られる)
この1月には野田市の小4女児が親による身体的虐待で殺され、6月には札幌の2歳女児が同様に殺された。2018年には東京・目黒の5歳女児の虐待死が話題になった。
こうした経緯をふまえ、政府が野党側の対案の一部を取り入れて修正し、法案は5月末に衆議院を通過。6月19日の参議院本会議で全会一致で可決したが、議論に時間をかけないこのスピード可決にも違和感を覚える。
公明新聞2019年6月20日付によると、「公明党の主張した内容を反映」と報じられているので、副総理兼財務相・麻生太郎などの自民党の政治家たちの失言による政府への不信感を少しでも払しょくし、選挙への影響を回避するために、自民党が公明党に花を持たせてやった格好だ。
そう勘繰ってしまうのは、改正の内容があまりに貧相で、「子どもの命を守ることを最優先にあらゆる手段を尽くし、児童虐待根絶に向け総力を挙げる」という安倍晋三・首相の発言とはほど遠く、虐待防止にとって説得力を欠くものだからだ。
体罰の範囲については、厚生労働省が今後指針で定めるそうなので、どこまでを体罰とするかは定かではない。2022年度までに児童福祉司を2000人も新たに増やすそうだが、たった3年半でそんな大規模な人材や予算の確保が本当にできるのか。
しかも、今回の体罰禁止には罰則規定がなかった。これは、国連子どもの権利委員会が親を訴追することは子どもの利益にならないと考えていることが背景にあるのかもしれない。しかし、「有権者である親を敵に回したくない」という政治的思惑によるところが大きいだろう。